見えざる勇者のウワサ

『ウワサのミツバちゃん Vol.5
 姉妹全員ウワサ好き、ミツバやで! みんな家族でウワサしてる? 今何より気になるウワサはコレ!
 龍は実在した!
 そんなんウソに決まってるやん! いるわけないやん! って思うやろ?
 ってウチも思ってたけど、ラネール、アッカレ、フィローネで旅してた時にめっちゃ目撃情報聞いてん! まぁ全員子どもやったけど……。
 子どもはピュアや! ウソつかへん! そやから絶対ほんまやで~。
 ミツバおススメ度 ★★★★☆』



 馬宿のテントには、宿泊者が自由に使える休憩スペースがある。いくつかの椅子で囲まれた丸テーブル――その上に、ひとつの冊子が無造作に放られていた。
 それは宿に訪れた者が自由に書き込めるノートだ。おそらく当初は馬宿側が「設備やサービスについてご意見をお寄せください」という意味で置いたのだろうが、今ではすっかり旅人たちの落書き帳と化していた。
「これからラネール登山です。寒そうだけどがんばります」「ヒガッカレまんじゅう、味は悪くないけど詐欺じゃないの?」「どなたかマックストリュフの生えているスポットを知りませんか。ご存じの方は、ナツとメグまで連絡を」――個人の日記から、不特定多数への伝言まで。走り書きの目的は種々様々だ。
 時折、冊子にはしおりがはさまっている。それは決まって三つ葉のクローバーの押し花を利用したしおりだ。興味を惹かれた旅人がページをめくると、目に飛び込んでくるのが「ウワサのミツバちゃん」というコラムであった。
 ハイラル中のウワサを収集し、おススメ情報とともに書き記す。当然、このコラムによって収入を得られるわけではない。それでも彼女――ミツバという旅人はハイラル中を巡り、集めたウワサを人々に発信し続けているのであった。
 ある日の湿原の馬宿にて、ぺらりと冊子をめくり、一人の女性が声を上げた。
「あ、またミツバちゃんだ」
「あのウワサのやつ?」
 友人らしき別の女が紙面を覗き込む。
「そうそう。『龍は実在した』だって。子どものウワサなんてウソくさくない?」
「この人ってウワサを書くだけで、それが本当なのかは全然検証しないよねー」
 けらけらと笑い、女性たちはテントを出て行く。
 馬宿中央の柱にもたれかかり、熱心にメモを取っていた「彼女」は顔を上げた。
 テーブルの上に放られた冊子を一瞥し、しおりをはさみ直して閉じる。
「ウソなんかやない」と唇が動いていた。
 意志の強そうなつり目に、跳ね上がった眉。名前を意識してか、長い髪は頭の後ろでふたつの三つ編みにされている。――そう、彼女こそがミツバであった。
(子どもがみぃんなウワサしとったんや。あの子らに分かるってことは、誰が見ても龍やって分かる――今まで見つかってへんのはきっと、心の汚れた大人には見えへんのや)
 だが、あの失礼な二人の指摘通り、彼女がウワサの真相を知らないのは事実だった。
(こうなったら……黙ってはおられへん)
 首を振り、ミツバは己を奮い立たせた。彼女は生半可な覚悟でウワサを書き記しているわけではなかった。
 龍を探してみよう。この目でしっかりと確かめて、またこの馬宿の帳面に書いてやるのだ。
 龍は実在した、と。
「待っとれよ、どこぞの龍さんよ!」
 ミツバは叫び、こぶしを振り上げた。



 ラネール、アッカレ、フィローネ。これが前回の調査により判明した龍の目撃地域である。
 ミツバが熟考の末、龍探索行の目的地に選んだのはフィローネ地方であった。
「ラネールはなー、雪山なんて今みたいな寒い時期に行くもんとちゃうし、アッカレはおっかないガーディアンがうろついとるし」
 一方でフィローネ地方は緑に恵まれた穏やかな土地であり、旅人の往来も比較的多いので、新たなウワサが収集できるかもしれない。そんな期待もあった。
 中央ハイラル平原方面から、ハイリア大橋を渡って南へと向かう。風がない日で、久々に見たハイリア湖には青空が綺麗に映っていた。今後の旅が順調であるように、と祈りながら橋を渡った。
 ミツバは、以前このあたりの子どもたちから龍のウワサを聞いた際、龍が出る兆候を教えてもらっていた。どうやら空に変化が現れるらしい。雲が出て強い風が吹き、時に雨をも降らせて雷を落とす。今のところ、フィローネ地方は平和そのもので、そのような予兆は見られない。
 橋を渡ったミツバは靴紐を締め、リュックを背負い直した。
 これから、「フィローネ樹海」と呼ばれる巨大な熱帯雨林地帯へ突入するのだ。整備された街道が通っているとはいえ、それなりの難所である。抜けるには気合いが必要だ。
「おっと、いきなりやな」
 森に入った途端、葉の隙間からささやかな雨が降ってきた。
 幸先よく龍のお出ましだろうか。期待しながら上を見たけれど、空は明るく風もない。単なる通り雨の可能性が高い。ならば雨宿りを、と駆け込んだ大樹の下には、先客がいた。
「あら」「こんにちは」
 軽く頭を下げる。ミツバと年の近いハイリア人の女性であった。おしゃべり好きの彼女は、先に挨拶する。
「ウチ、ミツバ。旅人なら知っとるやろ、あの『ウワサのミツバちゃん』やで」
 女性はぴくりとも眉を動かさず、胸に片手を当てて頭を下げた。
「私はタツノ。龍に魅せられた旅人です」
 ぴくりとミツバの肩が跳ねた。聞き捨てならない単語だった。
「龍って――まさか、見たことあるんか!?」
「いいえ、残念ながら。ですが、フロリア湖の近くでは異様な気配を感じるの。まるで本物の龍がそばにいるかのような……」
 タツノは遠い目をする。ミツバは胸がドキドキしてきた。やはり近くにいるのだ! しかも場所はこの樹海を抜けた先、フロリア湖だという。
「……てことはタツノさん、これからフロリア湖へ?」
「私はフィローネ地方の二つの湖を見て回っているのです。ハイリア湖も龍の拠点のひとつと考えています。これからは、そちらに向かう予定です」
 その口ぶりから、かなりの回数湖を往復しているようだが、タツノはまだ龍を見ていないらしい。
「……あなたも龍を?」
 質問され、ミツバは胸を張った。
「せや。子どもたちが見たってウワサしてたんや。必ず龍はこのあたりにおるで!」
「そうですね、龍はいます。ですが、誰にでも見えるわけではないようです。私にもあなたにも、見えたら良いですね」
 タツノは含みのある目線をミツバへ向けた。
「任せとき。龍を見たら馬宿の日記に書いたるわ。ウワサのミツバちゃんやで、覚えときや!」
 そのうちに雨が上がった。二人はそれぞれの方向に別れて街道を征く。
 いよいよ本格的な樹海探索が始まった。ぬかるんだ土からブーツを引き抜き、縦横無尽に張り巡らされた木の根を乗り越え、ミツバは時折設置された看板を目印に進んだ。道沿いにしばらく行けばレイクサイド馬宿、その少し先にフロリア湖がある。
 樹海には、木々に埋もれるようにしていくつかの遺跡があった。百年前の大厄災で無数に生まれた破壊跡ではなく、そのはるか過去に栄えた文明の証だ。生きるウワサを収集するミツバにとってはあまり興味のない分野となる。
 ――ふと、背後の方から気配を感じた。遺跡の石壁の向こうから何かが来る。
(出たな)
 ミツバはそっと腰に手をやり、身構える。最近はイーガ団などという集団が見境なく人々を襲っているらしいし、このあたりは魔物も多い。用心するに越したことはない。彼女は素早く木の陰に身を隠し、背後を伺った。
 規則正しい複数の足音とともに、旅人が姿を現した。ハイリア人の男だ。馬の背に荷物を載せ、自分は横を歩いている。立派な剣を背負っている割にびっくりするほどの軽装で、何故か二の腕丸出しの登山スタイルだった。
 このまま隠れるべきか、もう少し様子を見るべきか――
「え、そこに誰かいるの?」
 少年は急に声を上げた。ミツバはとっさに木の陰から出た。
「あ! もしかして、ウワサのミツバちゃんですか?」
 彼は顔を明るくした。輝くような金髪をしており、表情は無邪気でまだ旅には早い年齢にすら見える。
 少年がコラムの読者と知り、ミツバは笑顔になって距離を詰める。
「ウチのこと、知っとるんか! せやで、ウチがミツバちゃんや」
 読者に悪者がいるはずがない。という思い込みの通り、金髪の旅人は実に人の良さそうな笑みを浮かべ、
「うわーまさか会えるなんて。タツノさんが言ってたとおりだ」
 タツノはどうやら道中すれ違う旅人に宣伝してくれたらしい。ウワサにはあまり興味がなさそうだったのに。
「今度はどんなウワサを集めてるんですか」
「龍のウワサや。いや、ウワサだけやない、本物を見ようと思ってるんや!」
「いいですね! きっとフロリア湖あたりにいますよ」
 少年はにこにこしている。ミツバは大きくうなずいた。
「あんた、名前は?」
「リンクです。僕もフロリア湖方面に向かうところなんです」
「なら、一緒に行こか?」
「是非!」
 いつもは一人旅のミツバに、予期せぬ道連れができた。
 リンクは話好きのようで、興味津々の様子でミツバを質問責めにする。
「ずっと不思議だったんですけど、ミツバさんはなんでウワサを集めてるんですか」
「だって、おかしなウワサって聞くだけでワクワクするやろ? 旅にはそういう気持ちが必要やと思ってん」
 リンクは納得顔をしている。
「そうですね。ハイラルには全然知らない場所がまだたくさんあるって思うから、旅をしたくなるのかも」
 ウワサがウソか本当か、は実はあまり重要ではない。でも、もし本当だったら――それ以上に素敵なことはないだろう。
 日が暮れて、いよいよ足元が怪しくなってきた頃、二人はレイクサイド馬宿にたどり着いた。目的の湖はすぐそこだが、ひとまず疲れを癒やすのが先決だ。
 思わず同道することになったリンクも、ここに泊まるらしい。手慣れた様子で夕飯の準備をはじめていた。
 この馬宿にも、かつてミツバは「ウワサのミツバちゃん」を書き残していた。光る青いウサギの話だ。丸テーブルに近づき三つ葉のクローバーのしおりを探すと、そこには他愛ない落書きが足されていた。
「青いウサギなんて見たことない。本当にいるの?」「もしいたらお金持ちになりたいなー」「希少種に矢を射かけるなど、言語道断ではないか」
(こんなもん、か)
 どれだけウワサを集めても、実際はこうして消費されていくだけなのだ。
 彼女にはイチヨウとフタバという姉がいた。ミツバと同じように旅をする二人とは、最近あまり連絡をとっていない。ウワサ集めは姉妹の共通の趣味だったが、こうしてコラムを書いて積極的に他の旅人に働きかけるのはミツバだけであった。
(お姉ちゃんたちは、こうなるって分かっとったんかな……)
 単に移動のため、はたまた交易のため、タツノのように自分の夢を追うため――旅をする理由は様々だ。そしてミツバは、ウワサを集めて誰かに届け、旅人たちに新たな希望を与えるという目的を強く抱いていた。
 ウワサを集めていると、どうしても無視できない話題に遭遇する。中央ハイラル平原のガーディアン活性化。ハイラル城の不穏な赤い霧。百年続いた停滞はゆるやかに破られ、きっとそのうち、破局が訪れる。口にはしないけれど、そのような気配に敏感な旅人たちは誰もが分かっている。
 ハイラルの空をかける龍、大金をもたらす青いウサギ。不穏な時代だからこそ、ミツバは夢のある話をしていたかった。人々を元気づけたかった。その気持ちにウソはない。
(ウワサを集めるだけじゃ足りへんのか……?)
 今になって、どうしようもなく姉に会いたかった。



 夜半。馬宿のベッドの中にいたミツバは、突然の雷鳴と振動で目を覚ました。
(なんや?)
 馬宿の従業員がきゃあきゃあ叫んでいる。
「いつもこうなんですよ! 暗くなると雷が落ちて――きゃああ!」
 屋根の下に入れば大丈夫と分かっていても、ハイラルの雷は心臓に悪い。
 ふと、ミツバは思い出した。龍の訪れ、天候の変化。ときにそれは雷を伴うものであると――
 気づけば宿から飛び出していた。
「ミツバさん!?」
 同じように起き出していたリンクの声が、背後に流れていく。雨はないのに雷ばかりが鳴っている。気休めに木の盾を頭の上にかざしながら、ミツバはフロリア湖へと急いだ。
 湖にかかるフロリア橋は、木造としてはハイラルでも最大規模を誇る。そこまで来ると雲はすぐに晴れた。橋の上からは月の光に照らされたフィローネ樹海と大滝――水と緑が一望できた。
 雷は遠のいたが、まだ不機嫌にゴロゴロ鳴り続けている。徐々に勢いを増す風は、大滝の上から生まれてくるように思えた。
「ミツバさん。龍がいたんですか?」
 金色の大きな兜を小脇に持ったリンクが追いかけてきた。
「いや……いそうな気がしたんけどな」
 真っ黒な湖には静かにさざなみが立っている。だが、それだけだ。
 ミツバはフロリア橋の朽ちかけた欄干をぎゅっと握った。
「やっぱりウワサはウワサやったんや。龍なんて、悪い天気に説明をつけようとして昔の人がつくっただけの――」
 一瞬視界が白く染まり、ピシャンと雷が近くに落ちた。
 身をすくめる彼女とは反対に、リンクが弾かれたように上を見た。そこから強い風が吹いてくる。
「ミツバさん!」
 何故か彼は喜色満面だった。ミツバがきょとんとして見返すと、リンクは愕然としたように口を開いた。
「何かあったんか」
「いや……」
 彼は風の吹いてくる滝の上を睨み、突然弓矢を構えた。
 弦を目一杯引きしぼると、矢は逆風に負けずに飛んだ。ミツバが驚いて見つめる先で、中空で矢じりがきらりと光り、いきなり見えない何かに当たったように湖面に落ちていく。
「ごめん、お願い」
 何故かリンクは足元に声をかけた。空気が動く気配がした。
 そしてミツバに背を向けたまま、
「龍とか、妖精とか……そういう不思議なものって、たとえ目には見えなくても、確かにいると思うんですよ」
「え?」
「そう思ってるから、ミツバさんもウワサを集めているんじゃないですか?」
 リンクはしゃがみ、何かを地面から拾い上げるような仕草をした。
 ぴかぴかと輝く大きな円形のもの。とても薄くて、裏側にあるリンクの指が透けて見える。
「ウロコ……? まさか、龍のウロコ!?」
 リンクははにかんだ。
「こんな大きな光るウロコを持ってる生き物なんて、龍くらいしかいませんよね」
 ミツバには何も見えなかった。しかし、龍はいた。たった今、すぐそばを通ったのだ。
 そっと手渡されたウロコが証明してくれた。ウワサは本当だったのだと。
「リンクは龍、見えたんか」
「はい……一応」
「そっか」
 ミツバがうなだれると、リンクが心配そうな視線を向けた。
「……ところであんた、さっきからやたらと下に向かって話しかけてるのは、何なん?」
 リンクはぎくりとしたように肩を揺らす。
「え、ええと……そう! 僕には『見えざる勇者』がついているんですっ」
「はあ? なんやそれ」
 リンクは得意げに肩をそびやかした。
「聞いたことありませんか? 目に見えない勇者のウワサです。大きなオオカミみたいな姿をしていて、なんと、あのガーディアンにも勇敢に立ち向かったとか」
 ミツバも知らないウワサとは。彼女のまぶたがぴくりと動く。
「もしかして、さっき龍のウロコを拾ってきたのも、その勇者とやらなん?」
「そうそう! どうも僕にはそれが見えるみたいなんですよ~。それで、今までずっと一緒に旅してきたんです」
 ミツバは眉をひそめた。非常に怪しい。そんなものが見えるなど、リンクはなにかに取り憑かれているのではないか。
「ハイラルには、まだまだ不思議なことがいっぱいあって、歩き尽くせないほど広くて。だから旅が楽しいんですね」
 ミツバの手の中で、龍のウロコが淡く光っている。メモ帳を取り出すのも忘れて見とれてしまうほど、美しかった。
「……まあ、まずまずのネタにはなったわ」
「それは良かった」
 目も覚めてしまったことだし、とリンクはこのまま東のウオトリー村へ向かうという。ミツバはなんとなくフロリア湖から離れがたくて、そこで別れた。
 彼の背中にある紫の柄を持つ剣――一度も抜かれることのなかったその武器が、ミツバは妙に気になった。



「あ、しおり発見。『ウワサのミツバちゃん』だ」
 リンクは喜々としてページをめくる。ウオトリー村からの帰り道、彼はフロリア湖脇のレイクサイド馬宿に訪れていた。
「新しいウワサが書いてあるよ。読んであげるね」
 彼は小声で足元にいるウルフへと話しかける。
(別にわざわざ読まなくてもいいんだけどなあ……)
 ウルフはすんと鼻を鳴らした。リンクが語ったのはこんな内容であった。
『見えざる勇者のウワサ!
 ども、久しぶり。ウワサ集めが生きがいのミツバやで。
 ハイラルにはいろいろなウワサがあるけど、これは間違いあらへん。見えなくても絶対おるねん。なんてったって、ウチが会ったんやからな。龍のウロコをとってきて、渡してくれたんや。
 それにリト族の吟遊詩人の証言もある。なんでも見た目はオオカミやけどめっちゃ賢くて、旅人を導いて探しものを見つけてくれたり、敵をやっつけてくれたりするらしいって。会えたら幸せが訪れること間違いなしや。
 そのうち見えない勇者がハイラル城の魔物も倒してくれるかもしれへんで!
 ミツバおススメ度★★★★★』
 いつものしおりには、龍のウロコのかけらが綺麗に挟み込まれていた。
 リンクは顔のにやけを隠しきれないらしい。
「すごいなあ、もうカッシーワさんから話の裏を取ってる。ほら、キミのことだよこれ」
(……分かってるって)
 正直、少し照れてしまったウルフであった。
 ミツバには龍が見えていなかった。当然、ウルフのことも。それでも彼女はウワサを集め、旅を続けていく。
 リンクやウルフには当たり前に見えてしまう神秘が、彼女たちにとっては手が届かないものなのだ。分かっていたつもりだが、自分たちは普通の旅人ではない、と改めて気づかされた。
 それでも。届かないと知っていても、夢や神秘を求めてしまうのが旅人というものなのだろう。
「またいろんなウワサを教えてもらいたいな」
 リンクは笑顔になってページを閉じる。
(でも俺は厄災退治なんてしないからな。このハイラルの勇者はお前なんだから、ちゃんと自分でやれよ!)
 ウルフはその背に声をかけたが、果たしてリンクに届いたかどうか。
 彼らが旅立った後で、一人の女性が冊子を手に取る。
「……やはり、龍はいるのですね」
 タツノはしおりを見つめ、口の端に笑みを閃かせた。

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