世渡りは草の種

 コブルストンの村から北に向かうと、山道は一気に下り坂になった。
 アーフェンは故郷のクリアブルックを出てからこれまで三つの地方を踏破してきたが、どこもかしこも初めて見る景色ばかりで、ここハイランドも例に漏れなかった。標高が高く岩だらけの土地は、水と緑に恵まれた環境で育った彼には物珍しく、初めてこの地に足を踏み入れた時は胸が高鳴ったものだ。
 おまけにここは歴史の深い場所でもある。ちら、と横を見ると背の高い男が古びた青衣を風に翻し、歩きながら地図を眺めていた。
「ここをまっすぐ下ればコーストランドだな」
 という男の発言にアーフェンは相槌を打つ。
「俺、初めて行くとこだ。オルベリクの旦那は行ったことあるのか?」
「遠征でな。昔の話だ」
 剣士は言葉少なに答える。彼が足を出した拍子に、腰に佩いた鞘がかちりと鳴った。
 彼はまさに歴史の生き証人、八年前に滅びたホルンブルグ王国で「双璧」として名を馳せた剛剣の騎士である。彼は偽名を使い用心棒として近くのコブルストン村に閑居していたが、たまたま居合わせたアーフェンたちが村のトラブルに首を突っ込んだことがきっかけで、オルベリクの方から「ともに旅をしたい」と申し出があった。
 オルベリクは生真面目で実直な男であり、アーフェンは出会った当初から好ましく思っていた。彼が仲間になった時は諸手を挙げて喜んだ。戦闘においても人生においても年季が違う相手だが、「気負わず接してくれ」と言われたので、アーフェンはありがたくそのとおりにしている。
 慌ただしくコブルストンを出立してから中つ海沿いに街道を北上するにあたって、アーフェンはあることを心に決めていた。次の町についたら必ずオルベリクを歓迎の酒宴に誘おう。今アーフェンが一緒に旅している仲間は皆、酒好きなのだ。
 オルベリクが広げた地図を、横合いからひょいと栗色の頭が覗き込んだ。後頭部で高く結った巻き毛が風に揺れ、花のような香りがアーフェンの鼻孔をくすぐる。
「それにしても、コーストランドの中でリプルタイドだけ他の町と離れているのは不思議よね」
 踊子プリムロゼだ。その声には、青空の下でもどこか夜を思わせる色気が含まれている。砂漠で仲間になった彼女は今日も露出の多い衣装を着ていたが、いい加減見慣れたアーフェンは落ち着いて相槌を打った。
「確かになあ……陸じゃなくて海でつながってるってことなんじゃねえか?」
 コーストランドには他にゴールドショアやグランポートといった町が存在するが、どちらもリプルタイドからは一度ハイランド地方を経由しないと行くことができない。
 この疑問に関して、誰も正確な答えを持っていなかった。いつしか下り坂の途中で立ち止まっていた三人の視線は、しんがりをゆく男に吸い寄せられる。
「……なんだ?」
 紫の外套を着た男、テリオンは訝しげに眉根を寄せた。
「いや、テリオンって俺たちの中で一番旅慣れてるだろ。このへんにも来たことあんなら、知ってそうだと思ってよ」
「さあな、興味ない」
 話の内容は把握していたようだが、相変わらずのつれない返事だ。
 三人は再び進行方向へと歩き出した。オルベリクが小声で問う。
「……アーフェン。テリオンは何を生業にしているんだ」
 アーフェンは首をかしげた。薬師、踊子、剣士と分かりやすい職業を持つ三人と違って、テリオンについては未だ不明だった。
「さあ……普通の旅人だろ。そういや、なんかを探してるって言ってたな。だからノーブルコートに行きたいんだとよ」
 プリムロゼがきゅっと眉根を寄せる。
「テリオンはあなたと会う前もずっと旅をしていたんでしょ? どこから来たのかしら」
「故郷の話は聞いたことねえなあ……あいつ、ふらっとクリアブルックに寄ったって感じだったぜ。最初から腕は立ったな」
「ならば、用心棒でもして生活しているのか」
 とオルベリクが合点する。そういえばテリオンはアーフェンよりもはるかに懐が豊かだが、どうやって稼いでいるのだろう。
 そこで彼はふと思いつく。
「ほら、あれだ。旅人ってのは世を忍ぶ仮の姿ってやつで、テリオンの本業は……トレジャーハンターなんだ!」
 ぴんと指を立てて言うと、オルベリクがあっけにとられたように口をつぐみ、プリムロゼが吹き出した。
「そうね、そうかも。砂笛の洞窟でお宝を見つけた時、あの人にしては珍しく目の色を変えてたわね」
 まだオルベリクが加入する前、三人は砂漠で洞窟探索をした。あの時のテリオンはいつもの無愛想な顔を和らげて、明らかに乗り気で調べ回っていた。おまけに最奥の宝箱に入っていたリーフをアーフェンに譲ってくれたのだ。
「ほう、あいつにもそんな一面があるのか」
 オルベリクが面白がるようにほおを持ち上げる。
「やっぱりテリオンも冒険にわくわくする年頃なんだよ」
 などとにぎやかに会話していると、背後から鋭い声がした。
「おい、敵だ!」
 刹那、テリオンの警告を受けた三人は弾かれたように戦闘態勢に入る。下り坂で開けた視界の中、遠くからやってくるのは海のバーディアン三体だ。翼で自在に空中を翔ける厄介な亜人である。コーストランドに近づいたため縄張りに入ったのだろう。
 真っ先にオルベリクが飛び出した。どうやら彼は「誰かを守る」ことを信条にしているらしく、今までのアーフェンたちに足りなかった防御面を担当してくれる。
 バーディアンの一体が放った矢を、彼が大盾で受け止めた。アーフェンもその頼もしい背中に続こうとして――
「お先」「チッ」
 赤と紫の疾風がひと足先に坂を駆け下りていった。プリムロゼとテリオンはともに短剣の使い手であり、短い間合いで的確に相手にダメージを与えることを得意とする。テリオンが舌打ちしたのは踊子の突出を咎めたからだろうが、彼女はまるで動じなかった。
 ここでアーフェンが出ても混戦になるだけなので、おとなしく後方に控える。薬師としては仲間の負傷時にすぐさま動けるよう準備することも重要なのだ。
 味方はオルベリクを中心に立ち回ることにしたようだ。降り注ぐ矢雨を剣士に受けてもらい、相手が新たな矢をつがえる隙を見て、プリムロゼが黒豹のようにしなやかに舞踏する。それはテリオンの敏捷性を増すための踊りだった。
「俺の背を使え!」
 オルベリクは叫びながら軽くかがんだ。呼びかけられたテリオンは意図を正しく理解し、剣士の背を踏み台にして大きくジャンプすると、バーディアンの一体に飛びかかった。
 彼は勢いのまま短剣を相手の胴体に突き刺し、体重をかけて地面に引きずり下ろした。うまくバーディアンをクッション代わりにして着地する。残りの二体はテリオンの跳躍に驚いたところを、オルベリクが槍を振り回して落とした。
 追撃を入れるべく剣士が肉薄すれば、バーディアンが隠していた太刀を突き出した。
「くっ」「旦那!」
 盾が間に合わず、オルベリクは腕当てをかざして攻撃を受ける。高い金属音が鳴った。出血は確認できず、オルベリクもすぐに槍で応戦したが、あれは後で治療が必要だろう。アーフェンは薬の準備をはじめた。
「オルベリク、平気?」プリムロゼが声をかける。
「問題ない。このまま一対一に持ち込むぞ」
 あちらでテリオンが相手している亜人を除き、残りは二体だ。プリムロゼがうなずき、優雅にステップを踏んでバーディアンとの距離を詰める。敵も接近戦に切り替えたようで、弓をしまって太刀を取り出した。
 同じ種類の武器を扱っていても、舞うように刃を操るプリムロゼと、最小の動きで攻撃するテリオンは対照的だ。二人は着実に敵を弱らせていく。その横でオルベリクは怪我を物ともせずに立ち回り、一体を屠った。
 テリオンが相手の懐に飛び込んで急所をえぐり、とどめを刺す。一方でプリムロゼは敵から飛び離れた。
「オルベリク、任せたわよ」
「ああっ!」
 オルベリクが傷ついた鳥の亜人に駆け寄り、雄叫びを上げながら相手の体を槍で貫いた。亜人の背中から槍の穂が飛び出す。
「す、すげえぜ旦那……」
 その膂力におののいたアーフェンは、敵が三体とも地に伏せたことを確認してからオルベリクに駆け寄ろうとして、
「新手が来たぜ!」
 口の横に手を当てて叫んだ。坂の下方から登場したのは、ひときわ大きな体を持つバーディアンだ。群れのボスか何かだろう、貝殻や金属で体を飾り立てていた。
 亜人が引き絞った弓から一条の矢が放たれた。風切り音とともに飛来した矢は、なんとアーフェンの足元まで届いて地面に突き刺さる。
「マジかよ……」
 明らかに先ほどの相手とは格が違った。万全の状態で対応するにはオルベリクの怪我を治す必要があるが、その間他の二人に攻撃を引き受けてもらうと、さらに負傷者が増えかねなかった。
「ここは遮蔽物がない。一旦引くぞ!」
 形勢を不利と見たオルベリクの号令に従い、四人で坂を駆け上がる。砂浜が続くコーストランドよりも、背後の岩山に逃げ込んで態勢を立て直すべきだ。
 その時、街道の天辺に馬車が見えた。アーフェンらとは別の旅人の登場だ。
「こんな時に……!」プリムロゼが焦った声を出し、
「魔物がいるぞ、戻れ!」
 先頭をゆくアーフェンが大きく手を振って合図するが、気づかないのか馬車はそのまま坂を下りてくる。
 あの馬車と合流して、ともに戦うべきか。背後のバーディアンはどこまで迫っているのだろう――
 アーフェンが振り返ろうとした時、足元に影が落ちたかと思うと、バーディアンが頭上を飛び越えていった。
「あいつら馬車を狙ってるわよ!」
 プリムロゼが叫んだ。アーフェンは「まずい」と思いながらも、馬車めがけて高度を落とす亜人をにらむことしかできなかった。
「うわ、来るな!」
 さすがに馬車も急停止して、御者が地面に降り立った。オルベリクと同年代くらいの彼は、剣を振り回してバーディアンを追い払おうとする。が、空中から射掛けられる矢に対してはなすすべがない。
 さらに、幌の中から羽根つき帽子をかぶった商人が飛び出してきた。彼は弓矢を使って応戦するが、バーディアンは無軌道に空中を駆るのでなかなか当たらなかった。そのうち亜人が馬車の幌に体当たりし、鈍い音があたりに響く。
「あっ」
 衝撃で荷台から何かが飛び出した。バラバラと坂に転がったのは、何冊もの本だった。
「ああ、商品が!」
 商人が血相を変えて地面にしゃがみ込み、目の前の敵に構わず本を集めはじめる。バーディアンが容赦なく急降下したタイミングでアーフェンがやっと追いつき、斧で斬りかかった。
「させるかよ!」
 バーディアンは羽ばたいて回避した。その時、視界の端にきらめくものが横切った。それはまっすぐに宙を横切ってバーディアンの羽根を傷つける。敵は苦悶の声を上げて空中で揺らぎ、そのまま一目散に飛び去った。
 アーフェンの横に並んだプリムロゼが唇を噛む。
「逃げたわね」
「ああ……って、それより旦那だ!」
 彼は手を怪我したまま戦っていたはずだ。重症ではないといいのだが。
 アーフェンがオルベリクのもとを目指す傍ら、プリムロゼはすらりとした足で歩いていき、斜面に散らばった本を拾い上げる。積荷を集める商人たちを手伝うことにしたようだ。
「旦那、手当てするぜ」
「助かる」
 歴戦の剣士は素直に駆け出し薬師を頼ってくれた。アーフェンは古びた腕当て――きっとホルンブルグ時代の装備だろう――を外してもらい、オルベリクの腕を確認したが、痣になっているだけだった。頑丈な腕当ての硬い部分で攻撃を受けたためだろう。これも実戦経験が豊富だからこそ為せる技だ。
「よっしゃ、このくらいだったら包帯巻いてブドウ食ったら大丈夫……」
 言いながら患部から目を上げれば、オルベリクは明後日の方向を眺めていた。
 そこにテリオンがいた。彼は本集めを手伝う気配もなく腰を落とし、地面に転がったナイフを回収する。
「今の投擲は見事だったぞ、テリオン。弓矢の扱いも向いているのではないか」オルベリクが愉快そうに話しかけた。
「断る。面倒だ」
 テリオンは肩をすくめる。もしかして、彼がナイフを投げて空中のバーディアンに命中させ、撤退に追い込んだのか。やはり戦闘慣れしているな、とアーフェンは改めて感心しながら、肩から薬鞄を外して中身を漁る。
「ん?」
 アーフェンは手を止めた。視線を戻したオルベリクが瞬きする。
「どうした?」
「いや、なんか……薬草が多いような……」
 鞄の口を大きく広げて再度確認した。調合に使用する素材は種類ごとにきっちり分けて保管しているが、前見た時よりも増えているように感じた。ドクリミキの葉はこんなに在庫があっただろうか。
 オルベリクも緑の葉を目で数える。
「数え間違いではないのか?」
「そ、そんなはずは……ちゃんとメモとって管理してるんだぜ」
 アーフェンは手帳を取り出し、最新のメモを確認する。やはり数が合わない。
「増えたのなら問題ないのではないか」とオルベリクはあっさり片付け、
「帳簿をつけるなら、財布の中身も管理できるようになっておけ」
 さらにいつの間にか背後にいたテリオンから鋭い指摘が飛んだ。「それはそうだけどよ……」とアーフェンは首をひねりながらも、治療を完了させた。
 後始末が一段落したので、三人で馬車に近づく。プリムロゼはすでに本を集め終わったようで、商隊と思しき者たち――馬車に乗っていたのは御者と商人の二人だけだった――と談笑している。
 アーフェンたちに気づいた踊子が目配せした。
「こっちの治療は終わったみたいね。そうだ、あなたたちは怪我しなかった?」
 彼女は小首をかしげ、露出した体の線を強調するようにしなをつくる。自分の魅力を熟知している者の仕草だった。そうと分かっていても、アーフェンは未だに若干ぐらりと来てしまう。
「はい、特には。助けていただきありがとうございます」
 商隊のリーダーと思しき帽子の男はプリムロゼにほほえんでから、体の向きを変えてオルベリクを尊敬のまなざしで見る。
「それにしても、今の槍さばきは凄まじかったですね。もしあなたは名のある騎士様では?」
「いや、俺は……」
 言葉を濁したオルベリクの前に、すっと踊子が割り込んだ。
「彼はバーグさんと言って、コブルストンの村で用心棒をしていたの」
 これはアーフェンにはできないごまかし方だった。リーダーはうなずく。
「なるほど。あなたがたはリプルタイドまで行かれるんですか? もし良ければ、町まで護衛を頼みたいのですが」
「へ? そりゃ目的地は同じだけど……」
 アーフェンはオルベリクと顔を見合わせる。また唐突な申し出だ。
 リーダーは照れたように帽子を押さえた。
「見て分かる通り、私たちは商隊です。賊に対する備えはしてきたつもりですが、お恥ずかしいことにあのような大きな魔物への対策は考えておらず……。また先ほどの魔物が戻ってきたら、大事な積荷が台無しです。報酬は十分お支払いしますから」
「そうか……今の魔物、ゴールドショア近くの街道に出る種類だったな」
 オルベリクが渋面を作って腕組みする。そのためリプルタイド方面をゆく商隊は対策を怠った、というわけか。
 プリムロゼが目を丸くする。
「そうなの? 海を渡ってきたのかしら」
「分からんが、可能性はあるな」
「で、旦那。どうする?」
 アーフェンは仲間内で最年長の男性に指示を仰いだ。こういう時、テリオンはたいてい答えてくれないからだ。
「護衛の話なら、俺は問題ない」
 その返答を聞き、アーフェンはちらりと馬車を見る。積荷があるので中は狭そうだが、ここからリプルタイドまでの道中、交代で休ませてもらえたらありがたい。中でもプリムロゼは疲れていても限界まで歩こうとする傾向があるので、あまり無理をさせたくなかった。
 無言で目を合わせた三人がうなずいた時、
「俺は嫌だ」
 いつになくきっぱりと拒否したのはテリオンだった。アーフェンが振り向けば、後ろに控えていた彼は傍目にも分かるほどむすっとしている。アーフェンは彼に近寄ってなだめるように肩を叩いた。
「どうしたんだよテリオン。悪くねえ話だろ?」
「知らないやつの護衛はリスクが大きい」
 テリオンは手を払いのけながら言った。アーフェンは「そこまで警戒することかあ?」と思ってしまう。
(ってことは、テリオンは用心棒をして稼いでたわけじゃなさそうだな……)
 などとぼんやり考えていたら、横目でテリオンに視線を流したプリムロゼが低い声を出す。
「要するに他人と関わりたくないってこと? それなら、私たちと一緒にいるのはどうしてなのよ」
 普段の快活さとは正反対の、冷え切った雰囲気だった。テリオンはぐっと言葉に詰まる。
「……好きにしろ」
 結局彼が折れることで話がまとまった。商人たちは「ありがとうございます」と笑顔になった。
 一行は馬車を囲んで歩きはじめた。商隊は役割を交代し、今はリーダーが御者を務めている。アーフェンは御者台に座る彼に雑談を持ちかけた。
「ところでよ、運んでるのはどんな本なんだ?」
 坂に散らばる本を遠目で見ただけだったので、気になっていた。リーダーは自慢気に語る。
「ストーンガードからアトラスダムへ届ける書物です。希少なものもあるんですよ」
「えーっと、ストーンガードっていうと……」
「ハイランドにある製紙と製本の町だな」オルベリクが簡潔に答え、
「アトラスダムはフラットランド地方の城下町で、学者が多くいるのよ。リプルタイドよりも北の町ね」とプリムロゼが補足した。
 なるほど、本の需要がある場所に供給するというわけだ。それにしても、オルベリクはともかく砂漠で踊子をやっていたプリムロゼがいやにくわしいのは何故だろう。勤めていた酒場に学者の客が来ていたのだろうか。そういえば、彼女の経歴もテリオンと同じくほとんど聞いたことがない。もしや故郷が平原のあたりなのか。
「なるほどなあ。そりゃ大事な荷物だ」
 合点がいったアーフェンは、うなずきながら坂道を下った。
 一行が岩山の麓に到着すると、視界に深い青色の海ときらきらした砂浜が広がった。ここからは東リプルタイド海道と呼ばれる区間だ。強い日差しが照りつけ、首筋に汗がにじむ。
「海だ……」
 アーフェンは思わずつぶやいた。太陽を反射して輝く紺碧の水、砕ける白波――いずれも噂に聞いたとおり、いやそれ以上の光景だった。馬車に置いていかれないよう早足になれば、耳慣れた川音とは全く違う潮騒が近づいてくる。
 プリムロゼがふっと唇の端を吊り上げた。
「リバーランドからは海って見えないの?」
「いや、あるにはあるけど、こういう砂浜はねえんだよな」
 アーフェンは道から外れてブーツで砂を蹴り上げる。川の底に溜まった砂利よりも粒が細かくて黄色い。今日は天気がよく、思わず「泳ぐか!」と言いたくなるような陽気だったが、さすがに護衛中だったので我慢した。
 会話に加わる気配のないテリオンはちらちらと脇見しながら、最後尾を歩いている。アーフェンと違って海が物珍しいわけではなさそうだ。
 リーダーが御者台からまっすぐ向こうを指さした。海にほど近い砂浜に、岩壁が屋根のようにせり出している場所だ。
「そこの岩陰で一旦休憩にしましょう」
 戦闘後の疲労も溜まっていたのでありがたい申し出だ。一段高いところにある道から砂浜に降りた一行は、日陰に座り込んだ。
 アーフェンはすぐにブーツを脱いで逆さにする。砂は入っていなかったが、念のためだ。これは砂漠で身につけた習慣だった。
 砂浜のそこここに腰を下ろして休む仲間たちを尻目に、アーフェンは商隊に近寄った。
「なあ、さっきの荷物だけどよ、表紙だけでもいいから見せてくれねえか?」
 薬草に関する本がないかと期待しての発言だった。アーフェンが買えるような金額ではないだろうが、タイトルだけでも覚えておけば、いつかは中身を読む機会があるかもしれない。
「そうですね、構いませんよ。荷物が傷んでいないか確認したいですし……」
 リーダーはさっと敷物を取り出し、御者と協力してその上に次々と本を並べていく。いくつか紙に包まれた本があって、その包装もことごとく解いた。
 気になったのか、プリムロゼとオルベリクも物珍しそうに寄ってきた。テリオン一人だけそっぽを向いて岩壁に寄りかかっている。
 アーフェンは平置きにされた表紙を眺めて目を白黒させた。
「これ、ちょっとしたお宝ね。金の縁取りよ」
 プリムロゼが興奮した声を上げる。彼女が指さした本には細かい装飾が施されており、日陰でもきらきらと輝いていた。
「貴族向けなのかもしれんな。中身を読むためというより、本棚を飾るためにこういう本を所持することがあるらしい」
「へえ……」
 オルベリクの解説を聞きながら本を眺めれば、他には宝石が背表紙に埋め込まれた逸品まであった。これが坂にばらまかれたら商人たちが血相を変えるのも当然だ。そういう高価な本はすべて紙に包まれていたため、目立った損傷はなかった。装飾に目を奪われそうになりながらも、アーフェンは表紙の文字を拾い読む。
「薬の本はなさそうだな……」
 最終的に彼はがくりと肩を落とした。その脇で、リーダーは手元の目録を見ながら積荷を確認していた。
「ええと……あれ? 数が……」
 彼は首をひねった。声がだんだん険しくなる。空は晴れているのに不穏な雲が立ち込めたかのようだ。
「やはりおかしい。本が消えている……」
 プリムロゼが「え?」と瞬きをする。アーフェンがリーダーのそばに寄り、横から目録を覗いた。
「魔物に襲われた時に落としちまったんじゃねえか」
「全部拾ったはずですが……確認不足でしたね」
「じゃあ戻って探すか?」
 とアーフェンが提案すれば、商隊二人は何やらひそひそ話をはじめた。それが終わると、じっとりした視線が返ってくる。
「いえ……その前に、一度調べておくべきことがあります」
 剣呑な声色だった。アーフェンは嫌な予感を覚え、背中に冷や汗が流れる。
(まさか、本を盗んだって思われたのか!?)
「お、俺たちじゃねえよ!」
 思わず大声を出したのは、隣のプリムロゼが瞬時に殺気立ったことに戦慄したせいでもあった。
 リーダーはこわばった顔で笑いつつ、真剣な調子で言った。
「分かっています。ですが……あなたがたの荷物を確認させてほしいんです。あの本は大きいので、鞄にあったらすぐに分かるでしょう」
「えっと……」
 その提案にアーフェンは言いよどみ、思わずオルベリクを見た。
「やましいことはない。見せればいいんだろう」
 堂々と荷物を出したオルベリクにつられて、アーフェンもプリムロゼもしぶしぶ鞄に手をかけた。アーフェンの荷物には職業柄、薬草や小瓶が多い。手帳には一瞬目をつけられるかもしれないが、もちろん目当ての本ではないことは明白だ。
 ちらと仲間たちの荷物の中身に目をやれば、プリムロゼは化粧品、オルベリクの方は剣の手入れ道具が視界に入る。やはりそれぞれの生業が色濃くあらわれていた。
 商隊に荷物を確認してもらい、本がないことを証明する。無事に三人分の点検が終わってから、アーフェンは一向に近寄ってこない最後の一人を振り返った。
「ほら、テリオンも――」
「なんでそんなことをする必要がある?」
 岩壁に寄りかかるテリオンから放たれる緑の視線は乾ききっていて、疑っている側の商隊すらひるむほどだった。
 困ったもんだと思いながら、アーフェンは改めてテリオンの佇まいを観察した。身軽な彼は荷物を小分けにして身につけているようだ。だが、あの分厚い外套の下に何か隠している気配もある。
 ふと、アーフェンは「荷物を見ればテリオンの生業が分かるのでは」と閃いた。そのこともあって、テリオンは所持品検査を嫌がっているのではないか?
 リーダーは疑心暗鬼の目でテリオンを見た。
「本当にご存知ありませんか? この本のように、金縁の装飾がついた希少なものなんです」
 彼は敷物の上に並べられた本の中でもひときわ豪華で重そうな一冊を持ち上げ、日差しの下で高く掲げた。金の縁取りがまぶしく光る。
 ――その瞬間だった。
「伏せろ!」
 焦りを含んだオルベリクの声がして、アーフェンたち三人はとっさに姿勢を低くする。商隊だけが出遅れた。
「ああっ!?」
 一瞬何かが頭上にやってきて、飛び去った気配がした。はっとしたアーフェンが顔を上げれば、リーダーがしゃがみこんで片手を押さえている。指の隙間から血がこぼれていた。
 無事だった御者が空を指差す。
「あいつに本を盗られました……!」
 本を持ったバーディアンが宙に浮かんでいた。亜人はこちら――否、敷物に広げられた本に強い視線を向けている。
「さっき逃げた魔物ね……!」プリムロゼが険しい顔で短剣を抜き放つ。
「だ、大丈夫か!?」
 魔物の相手は仲間に任せ、アーフェンはリーダーに駆け寄った。包帯を取り出して手早く止血する。幸いなことに、傷は深くない。リーダーは浅い呼吸を繰り返して「ありがとうございます」と言う。
 アーフェンは処置を進めながら戦場の様子をうかがう。一度は逃走するしかなかった相手に、仲間たちはどう立ち向かうのだろう。
 不意に、雲が横切ったようにすうっとあたりが暗くなった。
「月夜の闇……」
 それは錯覚で、プリムロゼが呼んだ闇が魔法陣から吹き出し、空中のバーディアンを襲ったのだ。力を奪われた亜人は翼をでたらめに羽ばたかせ、高度を維持しようとする。
「弱点じゃなかったみたいね」
 悔しげに唇を噛む踊子を尻目に、テリオンが猛然とこちらに走ってきた。
「貸せ!」
 と言って、返事も聞かずに商人から弓矢を奪い取る。使い方を知っているらしく、テリオンは堂々たる姿勢で弦を目いっぱいに張ると、いい音を立てて矢を放った。
 もともと的が大きかったことと、プリムロゼの魔法で動きが鈍ったことが功を奏し、矢はバーディアンの肩口に命中する。同時にテリオンがぼそりと何かつぶやくと、相手の羽根が一気に燃え上がった。亜人は苦悶の声を上げながらくるくると落下してきた。
 プリムロゼが叫ぶ。
「今がチャンスよ!」
「一番槍!」
 そこにオルベリクが駆け寄り、地に落ちた魔物が復帰する前にすかさず槍を刺した。一撃で仕留めることはできなかったが、連続で槍を突き出せば、やがてバーディアンは動かなくなった。奪われた本が砂の上に転げ落ちる。
「おおー……」
 アーフェンは感嘆の息を吐く。優秀な仲間たちは手当てが完了するまでの短い時間に敵を片付けてしまった。
「頼りになるわ、『バーグさん』」
 プリムロゼがにっこりして剣士の二の腕を叩く。気安い態度にも動じず、オルベリクはかぶりを振った。
「バーディアンは本で手がふさがっていた。それに、テリオンの弓矢がなければもっと苦戦していただろう」
「そうね、テリオンのおかげ……あら?」
 踊子が声をかけた先で、テリオンが短剣を持ってバーディアンに近寄り、亜人が身につけていた腰袋を切り離した。紐が解け、中からごろりと出てきたのはこれまた金ぴかの本だ。
「それは……我々の荷物です! 間違いありません」
 手に包帯を巻かれたリーダーが痛みを忘れたように身を乗り出す。
「魔物に盗られていたのね……」プリムロゼが肩の力を抜いた。
「金の装飾が気に入ったのだろうな。他に身につけているのも、光り物ばかりだ」
 オルベリクが槍で軽くバーディアンの装備をつついた。最初に見た時から装飾品が多いと思っていたが、そういうことだったのか。鳥が光るものを収集する癖と関係があるのかもしれない。
 この時になって己の判断ミスを悟った商人は、一行に平身低頭する。
「申し訳ありません、無用な疑いをかけてしまって……!」
「いいってことよ。荷物が戻ってきてよかったじゃねえか」
 アーフェンは手を振りながら苦笑いする。プリムロゼは溜飲を下げたのか、澄ました顔をして短剣をしまった。
 テリオンは気にした様子もなく、商人に二冊の本と弓矢を手渡す。
「休憩している暇があれば、早くこの道を抜けた方がいい。他にもこういう魔物がいるかもしれん」
「そ……そうですね。おっしゃるとおりです」
 それ以降、気まずくなったのかリーダーは黙りがちになり、一行は静かにリプルタイドへの進軍を再開した。馬車を囲む人数は休憩前よりも減っている。結局あまり休めなかったこともあり、アーフェンが商隊と交渉してしばらくプリムロゼを馬車の中で休ませてもらうことにしたからだ。
 またもやテリオンは一人、馬車の荷台の後ろを歩いている。アーフェンは歩調を緩めてその隣に並んだ。
「なあテリオン、もしかしてさっきの魔物が本を盗んだって知ってたのか?」
 そう問うと、彼は目をそらしながら答えた。
「……前に、ああいう魔物が巣に光り物を溜め込んでいるのを見たことがあった」
(あ、だから馬車と一緒に行くのが嫌だったのか?)
 光り物を満載した馬車のそばにいれば、またバーディアンに襲われる可能性が高くなる。最初にあのバーディアンがまっすぐ馬車に向かっていった時点で、テリオンは原因を把握していたのだろう。
 合点がいって一人でうなずいていると、急にテリオンが外套の内側から何かを取り出し、アーフェンの手元に押し付けた。
「これはおたくが使え」
「え?」
 手を開くと、見覚えのある葉っぱが載っていた。アーフェンは目を見開く。
「コンラントの葉じゃねえか。どうしたんだよいきなり」
「さっきの魔物が持っていた。見てなかったのか?」
 テリオンは呆れたような目になる。アーフェンは本や装飾にばかり注目して、薬草には気づいていなかった。亜人の腰袋から出てきたのだろうか。
 直後、アーフェンは悟った。
(もしかして……俺の鞄の薬草が増えてたのもテリオンの仕業か?)
 魔物の持ち物を見つけて拾い、アーフェンが気づかぬうちに荷物に入れる。テリオンの器用さなら十分に可能だろう。
 今回テリオンが直接渡してきたのは、おそらく先ほど「知らないうちに荷物が増えた」とアーフェンが主張したためだろう。これ以上騒ぎを起こさないための方針変更だ。
 アーフェンはこみ上げてきた笑みを隠しきれず、にやにやしながらテリオンの肩を叩く。
「ありがとよテリオン。でもなあ、薬草は自分で使った方がいいんじゃねえか……?」
 叩かれた拍子に軽く前のめりになったテリオンは、こちらを白い目で見ながら、
「自分の分は確保している。これ以上は持ちきれん。……それに、薬草ならおたくの方がうまく使えるだろ」
「お……おう」
 不意をつかれたアーフェンは曖昧な返事をした。じわじわと胸に感動がこみ上げる。テリオンとともに大陸を中つ海沿いにだいたい半周してきた結果、どうやら薬を練る腕だけは認められたらしい。
 照れくさくなったアーフェンは鼻の下をこすりながら、前をゆく馬車を見つめて少し声を張る。
「へへ、まあ薬屋に任せておけって。にしてもよ、いくら焦ったからって恩人を盗賊と勘違いするなんてひでえ話だよな!」
「……そうだな」
 テリオンは不意に表情を消した。それきり口を閉ざして、何も言わなくなる。
 彼は社交的な気分が長続きするタイプではないのだろう。アーフェンは気にせず歩を進めた。何はともあれトラブルは回避できたし、仲間にも実力を認められたようで気分は良かった。
 潮の香りと湿った風が真正面から吹き付ける。波のリズムに合わせて足を運べば、目的地のリプルタイドはもうすぐだった。



「それでね、先生が拾った古いコインをあたしの交渉術で高く売ったのよ! ま、あたしに任せておけばアイテムの売買はばっちりよね」
 両手を大きく広げて豪語するのは、リプルタイド出身の商人トレサだ。大きなリュックと帽子についた羽根がその身分を物語っている。
 あたりにはのどかな平原が続き、時折ゆっくりと羽根を回す風車がそびえている。リバーランドと似ているようでまるで違う光景に、アーフェンは目を奪われ――ていなかった。歩きながら、新たに加わった仲間の話に集中していたからだ。
「本当に、お金に関してはトレサさんのおかげで助かっています」
「あれは見事な交渉だったな。わたしも見習いたい……できるかどうかは分からないが」
 神官オフィーリア、狩人ハンイットといった面々が順番にうなずく。
 今やアーフェンたちは男女混合の八人と雪豹一匹という大所帯で、一路ノーブルコートへと向かっていた。仲間が増えたのは、少し前にある村にて残りの四人と一匹と出会ったためだ。
 そして、ノーブルコートを目指す理由は一つ。盗賊テリオンが――そう、彼はとうとう皆の前で自身の正体を明かしたのだ――果たすべき目的があるからだった。
「そろそろ休憩にしようか」
 隊列の前の方でオルベリクと話し合っていた学者サイラスが振り返り、相変わらずの涼しい声で言った。
 一行は見晴らしのいい丘を上り、頂きにある風車の近くに集まった。死角を減らすため何かを背にして休憩すべきだ、と狩人が進言したからだ。
 皆はなんとなく輪になって草原に腰を下ろす。トレサは商売道具の入ったリュックを大事そうに肩から外し、旅商人の必需品たる敷物を広げた。
「ノーブルコートにはアトラスダムほどじゃないけど、学者さんがたくさんいるのよね。何が売れるかなあ……」
 彼女はわくわくした面持ちでリュックの中身を敷物の上に並べていく。商品の在庫点検だろう。明るく活発な最年少の少女を、皆はほほえましい気分で見守っていた。
 途中でトレサは首をかしげる。
「あれ。これってなんだろ?」
 彼女が取り出したのは、少々古びた銅製のランタンだった。
「まあ。磨けばきれいになりそうですね」オフィーリアが朗らかに笑い、
「それはボーンズ系の魔物が持っていることがあるぞ。倒した時に見つけたんじゃないか」
 魔物の生態に詳しい狩人ハンイットが指摘した。
「ええー? あたし、見つけた覚えないわよ!」
 なんでリュックに入ってるの、とわあわあ叫びはじめたトレサを、オフィーリアとハンイットが困ったようになだめる。
 そのやりとりを遠目に眺めていたアーフェンは、誰かが近くに来た気配を感じて表情を取り繕った。
 隣に腰を下ろしたのはプリムロゼだ。こちらに体を寄せて囁いてくる。
「いつかのアーフェンの荷物も、あの人の仕業だったってことね」
 彼女は輪の外にいるテリオンを見やる。トレサがいくら騒いでも彼は素知らぬ顔をしていた。どうやらプリムロゼにはからくりがバレていたらしい。オルベリクに視線をやると気まずそうに目を伏せたので、彼も同様だろう。
 アーフェンは両肩を軽く持ち上げた。
「あいつ、適材適所ってことで、持ちきれない荷物は無断で誰かの鞄に突っ込むらしいぜ」
 薬草なら薬師、換金できるものなら商人、といった具合だ。テリオンがあのランタンを荷物に忍ばせたのは、トレサが一行の共有財産を管理しているからだろう。
 プリムロゼが柳眉をひそめ、形の良い人差し指をすっと立てる。
「それはいいけど、一応気をつけなくちゃだめよ? 人から盗んだものが自分の荷物に入っていたら、あなたが疑われるんだから」
「んー……あいつ、そういうことはやらねえよ」
 アーフェンは断言し、頭の後ろで手を組んだ。テリオンは無闇に他人にリスクを負わせるタイプではない、ということは今までの短くない旅路の中で分かっていた。彼は盗みの代償を自分で引き受けるだろう。
 おまけに、どうもテリオンは己の生業を隠すためか、アーフェンとともに旅をはじめてからは盗みを自重していたふしがある。だから砂漠における洞窟探索がいい気晴らしになったのかもしれない。
「……サイラス先生も、そう思ったからテリオンのこと誘ったんじゃねえかな」
 アーフェンは、地図を見ながらオルベリクと何か協議している学者と、離れた場所で武器を手入れしている盗賊を見比べる。学者はこの場にいる仲間の中で唯一、テリオンの正体を最初から知っていて旅に誘ったのだ。
「そうね。テリオンはそういう人よね」
 プリムロゼはふっと笑った。その表情は商売用の笑みとかけ離れた穏やかさで、アーフェンは思わず見とれてしまう。それから我に返り、ぶんぶんと頭を振った。
 身を立てる手段は薬草の種類ほどにたくさんある。テリオンの生業は盗賊であり、他人から何かを奪うことで世を渡ってきた。だが、今の目的はボルダーフォールの依頼主が失った持ち物を取り返すことだそうだし、その技を活かして何度もアーフェンたちを助けてきたことも事実だ。
 そうだ、だから皆はテリオンが盗賊だと知っても受け入れられた。これがテリオン以外の盗賊ではうまくいかなかったに違いない。
 アーフェンはそれこそ最初から――クリアブルックで毒ヘビ退治に付き合ってもらった時から、下手をすると本人よりもテリオンのそういう律儀な気質をよく知っているのだ。

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