新生ハイラル経済学

「ゼルダ、頼む!」
『……認めたい気持ちは、山々です。しかし、私の一存で決められることじゃないんですよ』
「だよな。分かってるんだ、でも」
『ええ』
「金が足りないから給料を上げて欲しいんだ——!」



「だいたい、神の汽車を修理したり、パーツを付け変えたりできること自体が驚きだった」
『そうですよね。百年以上前の代物ですから』
「だから、まさか、こいつに信じられないくらいルピーを費やすことになるとは、思わなかったぜ」
『私は、なんとなく予想していましたけどね……はあ』
「い、いーじゃん汽車好きなんだから! かっこよくカスタマイズしたいじゃん! なんたって神の汽車だろ、オレの魂が嫌でも騒ぐんだよ」
『はいはい』
「なんだ、ゼルダも言うようになったじゃねえか」
『あなたのせいですよ』
「……。とまあ、こんな理由で、とにかくオレたちは金欠だ。おまけに、ばあさ——シャリンさまに加えて、ディーゴの野郎まで無賃乗車させている」
『それは仕方ありませんよ。ですから、交易とお宝集めで不足を補おうと、再三主張していますのに』
「給料アップが無理なら、もっと手っとり早い方がいいだろ! ラインバックにいちいち頭下げるのも、しゃくに障るし」
『機関士のお給料だって、ジイが苦労して捻出しているというのに。私たちは……』
「ジイって、あのじーさんか。ふうん」



「シャリンさまー! これから乗客一人がゴロンの村まで乗ってくるんで、よろしく」
「おお。久々の客じゃな」
「それと。ほんのついでに過ぎないけど、ディーゴ。てめえも静かにしてろよー、物音一つたてるなよー」
「……」
『もう、リンクはどうして、そんなにディーゴさんに辛くあたるのですか!』
「元・敵幹部のくせに、オレの列車にただ乗りしようって魂胆が気に食わないから。あとで絶対金払えよ!?」
「話していていいのかい、客が乗ってきたようだよ」
『まあ、ジイではないですか! 一体どうやって……あんなほっかむりをしただけのバレバレの変装で、お城から抜けて来ることができたのでしょう』
「オレたちは苦労したのにな……。あ、お客さん、客車はこっちっす。ゴロンの村までで良かったよな」
「ええそうです。おっと先客がおられましたか。あいすみません」
「お気になさらず」
「こちらのがっしりした方は、お孫さんですか?」
「……いや」
「ぶはっ、あっはははは!」
『あっリンク、笑ってはいけませんよ! ディーゴさんがものすごい顔で睨んでいます』
「だってあいつらが、おばあちゃんとか孫とか。いくら髪型が似てるからって!」
『安全運転を心がけないと、ジイからの謝礼が減ってしまいますよ』
「それではみなさま、本日はカーブの多い行程となっておりますが、安全運転で参りたいと思います。出発進行!」
「汽車に乗るとまるで別人のようだな」
「……そうじゃな」



「ふー、一件完了。これでまとまった金が出来たな」
『何故ジイは、ゴロンの村で降りたのでしょう?』
「あそこでゼルダ姫の目撃情報があったから」
『はい? 待ってください、私は……このような身ですよね』
「オレが各地で噂を流しておいた。たぶん次は、城下町までつれてけって言うはずだぜ。毎回ジイを拾っていけば、ごっそりルピーもらい放題」
『……もちろん、そのお金はハイラルのために役立ててくれますよね?』
「あったりまえだろ。とりあえず今回の分は、ヤミの鉱石を買うための頭金にする」
『世間って、私が思っていたよりも世知辛いんですね』

inserted by FC2 system