双曲線の交わる場所



 しなびた果実がほのかに甘く香ることを、その時テリオンは初めて知った。別段、知りたくもなかったが。
「今日の収穫はこれだけだな」
 オレンジの髪を鬱陶しそうに払い除け、その少年はひとつきりのリンゴを切り分けるべく、ナイフを取り出した。
(……兄弟)
 今となってははるかな過去のように思える日々。己の半身とすら感じていた兄弟と過ごした数年間の、まだはじめの頃だった。
 暗い路地で、子供の二人は地べたに座っている。テリオンの手に放られたのは、半分に分けられたリンゴであった。
「ま、たまにはこんな日もあるさ」
 兄弟は強がるようにそう言うけれど、盗みに失敗したテリオンは胸が塞がる思いだった。
(これからはちゃんと、ふたつ盗めるようにならないと)
 中途半端に分け合ったりする必要がないように。一人でひとつ、リンゴを食べられるようになったらいい。
 手に入れたものはなんでも隣にいる兄弟と分ける。そうするのが当たり前なのだと、その時のテリオンは思っていた。



「お互い一日お疲れ様——ってことで、乾杯!」
 薬屋の大声が酒場に響く。その夜、すっかり意気投合した八人は大いに盛り上がった。
 テーブルに並ぶのは豆と雑穀を散らしたサラダや、小麦を練った団子を浮かべたスープ、それに鶏肉の燻製など。旅人たちは歓声を上げてエールを飲み交わし、農耕と牧畜が盛んなフラットランドらしい郷土料理に舌鼓を打つ。
 食事に対して特に気を払わないテリオンにも、悪くない味であることが知れた。おまけにいくら食べても自分の懐が痛まず、それどころか学者の財布を軽くできるとなれば、食器を持つ手にも力が入る。
「ずっと動いてたからお腹減っちゃったわ」
 旅人が八人となると大皿の中身は激しい勢いで減っていく。中でも商人は恐るべきスピードで皿を空にしていた。健啖家の薬屋ですら「あっまだそれ食べてなかったのによお」と文句を言うほどだ。
「それにしても、昼間は大変でしたね。まさかリンゴを盗んでいたのが魔物ではなく、人間だったなんて……」
 ふと神官が食事の手を止め、憂いのまなざしでテーブルを見つめる。踊子が話を引き継いだ。
「そう、ね……。でも助かったわハンイット。あなたの弓と、リンデのおかげね」
「あれくらいは別に……オルベリクの状況判断が的確だったからだ」
「いいや、四人揃っていたからこそ、犯人にたどりつくことができたのだろう」
 どうやら別行動をしていた四人もすっかり打ち解けているようだ。
 翻って洞窟での戦闘を切り抜けたおかげか、学者、商人、薬屋の間にも明らかな結束が見えた。テリオンも、正直言い逃れできないレベルで商人と関わってしまっている。
 七人はまるで長く連れ添ってきたかのように和気あいあいと食事していた。もはや、テリオンにとってはため息をつくしかない事態に発展している。
 そんな中、狩人が学者に視線を向けた。
「さてサイラス、いい加減今回の事件の真相を話してもらえるのだろう?」
 学者は優雅にうなずく。
「もちろん。みんなも聞いてくれるかな」
 八人が囲んだ食卓は改まった雰囲気になる。
「まず、事の起こりは十年ほど前に遡るのだが——」
 出だしの時点で、これは長話になるとテリオンは確信した。ゆえに遠慮なくエールを喉に流し込み、揚げ物を口に入れながら聞いた。
 ——リンゴ園の村長とその息子は、確執を抱えていた。リンゴを育て穏やかな村の維持を望む父親と、村の拡大を求める息子。家族といえど対立は必至だった。
 発展を望む息子は、かねてから村で行われていた本の行商に目をつけた。大々的に書物の仕入れを行い、人々を呼び込もうと考えたのだ。彼は村内の若者を集め、年に一度の祭りを立ち上げ、手探りで勢力を伸ばしていく。
 そんな中、彼は「ある組織」と接点を持った。祭りの目玉として幅広く書物を求めた結果、裏の社会とのつながりができたわけだ。それも村の発展のためならと、仲間たちを説得しやりとりをはじめた。
 息子はその組織からある書物——サイラスの探していた本を渡された。そこには危険な薬草の栽培方法が載っていた。薬師として優れた腕を持つ彼は書物を紐解き、村で育てた薬草を組織に売って多額の金銭を得る契約をした。
 数年間は順調に取り引きが成立した。しかし、彼はより大きな利益を求めた。薬の原料を栽培するだけでなく、薬自体の精製にも手を出そうとしたのだ。そこで組織の方針と食い違った。
 おそらく組織は村での薬草栽培を資金洗浄の場としても利用していた。そのため組織の職域にあまり踏み込まれると不都合が生じる。深まっていくばかりの対立は、今にも一線を越えようとしていた。
 そんな中、父親のリンゴ園が正体不明の存在に襲われるようになった。息子はそれを組織の脅しと受け取り、対策を講じる。
 今回の競りは、息子の側が仕掛けたものだった。衆目を集める表の舞台で薬を取り引きすることで、己の安全を確保しようとしたのだ。用意した本に薬草を仕込み、それを組織の側が落札するという条件を飲ませた。追い詰められた息子は、本を競り落とした者を捕らえることで組織を脅迫しようと考えていた。
 そこに、部外者である商人の少女がうっかり割り込んでしまったのだ——
 商人があんぐりと口を開ける。
「え、じゃああたしが買ったのは全然違う本だったの……?」
 一万も使ったのに、とずれた部分でショックを受けている。
「しかし重要な手がかりだったよ。トレサ君のおかげで私の求めていた本が手に入ったのだから」
 学者がフォローを入れたが、衝撃が抜けきれないらしく商人はわなわな震えていた。
 テリオンからすれば、あの目利きの技術は本物だった。人間としても商人としてもまだまだ駆け出しの少女は、どうやらモノに込められた「思い」を感じ取ったらしい。それは決して誰にでもできることではない。
 青目を細め、学者はテーブルを挟んで反対側に水を向ける。
「そうだ。私の推理を補完するためにも、ハンイット君たちの話を聞かせてくれないかな」
 狩人がやや硬い表情で腕組みをする。
「もうほとんどあなたが語り尽くしたようなものだが……いいだろう。
 リンゴ園の主人から調査の依頼を受け、わたしたちは四人でそこに向かった。ここ最近、収穫を迎えた果実が夜中に盗まれる事件が頻発していたらしい。魔物の仕業ではないかという話の通り、確かに現場にはそれらしき足跡が残されていた」
「でもそれは偽装だったんですよね」神官が言葉を引き継ぐ。
「ああ、リンデが気づいた。何より足跡はあっても、木の幹には傷がついていなかったからな。あの足跡のサイズから考えられる大きさの魔物なら、幹をのぼるか体当たりをするか、ジャンプをしないとリンゴには届かないはずだ。あたりには踏み切ったような跡もなかった。もしや人の仕業ではないか、というオルベリクの推測もあって、わたしたちは周辺を探索することにしたんだ」
 今度は踊子が口を開く。
「私が近くの林を歩いていたら、怪しい男がいてね。黒いフードをかぶってていかにもな見た目だったから、ちょっと話を聞いたの」
 剣士が「む……」とうなったので、おそらく彼女は短剣をちらつかせて情報を手に入れたのだろう。やはりこの踊子、相当好戦的だ。
「俺たちはプリムロゼの情報を元にその林に潜んでいた犯人たちを見つけ、戦闘になった。相手は五人いたが、なんとか勝利することができた。おそらく、あれが祭りの主催側と対立していた組織だったのだろう」
 と剣士が続ける。
「一通り片を付けたところで、わたしたちのところにハーゲンがやってきた。そこで後始末をオフィーリアたちに任せて、わたしがあの洞窟に向かったというわけだ」
 狩人が話を結び、学者を見やる。
「わたしをあの場に招いたのは……雷鳥を呼ぶためか?」
 すると、学者の青い瞳に太陽が輝く。
「それもあるね。ああいった幻を覚ますには音と光による衝撃を与えるのがいい、という仮説を耳に入れたことがあったから」
 狩人を頼ったということは、さすがに最初から雷撃魔法を使う予定はなかったのだろう。当たり前である。洞窟内で魔力が弾けた瞬間、テリオンはとっさに自分の体が動いたことに感謝したものだ。学者は一度目の雷を広範囲に走らせて相手の位置を特定し、二度目は狙いを絞って攻撃した。把握済みの味方の位置は外すだろうと分かっていても、あの時は戦慄した。
「万が一に備えてハーゲンには助けを呼びに行くよう頼んだが、結果的にハンイット君たちを利用したようになってしまったね。怒らせたのなら、すまない」
 学者はあっさり頭を下げるが、狩人は逆に目を吊り上げた。
「違う! あなたが一人で危険に飛び込むようなことを……そう、わたしは心配しているんだ」
「一応あそこには俺もいたけどさ、ハンイットの言う通りだと思うぜ先生」
 薬屋も横から援護する。学者と共に洞窟にやってきた彼は、おそらく村から同道していたのだろう。そこで学者に何らかの迷惑をかけられたに違いない。
「しかし、トレサ君たちの無事がかかっていたわけだから、あの場面では突入以外の選択肢はなかったよ」
 学者は全く悪びれる様子がない。ここまで厳しく言われてもこの態度を貫けるとは、とんでもない胆力だ。
 商人は「自分のせいで先生がいじめられている」とでも思ったのか、しきりにテリオンに目配せしてくる。学者をかばえということか。もちろん応じる気はない。
「あー! えっと、ほら、ご飯冷めちゃうわよ!」
 結局、商人は自分で下手な助け舟を出した。
「そうね」「いただくとしよう」
 踊子と剣士がさらりと相槌を打って、ナイフとフォークを手にとる。
「どうぞ存分に食べてくれ」
 にこにこと手を広げる学者は、本当に今の話を理解しているのだろうか。事件の背後関係を紐解くことにはあれほど熱心だったのに、自分の話題になると異様なほど鈍くなる。
 長話と雑談との合間にも、食事と酒は進んだ。あらかた大皿が片付くと、「あとはデザートでもあれば最高なんだけどなあ」と商人がわがままを言う。
「ああ、そういえば……」
 神官が立ち上がって酒場のマスターに話しかけに行く。その場には弛緩した雰囲気が漂っていた。
(そろそろ、か)
 テリオンは学者の秀麗な横顔を見定めた。
 椅子から立ち上がる。薬屋が文句を言いかけるのを無視して、学者のローブの後ろを通った。すれ違いざまに「あんたに話がある」と告げる。
 学者は無言だった。
 酒場の外に出る。晴れ渡った夜空は澄んだ冷気を運んできた。それでもあの洞窟に吹き荒れた魔力よりはずいぶんと生ぬるい。レイヴァースの屋敷で浴びた氷はさらに冴え冴えと冷たくテリオンを襲ったものだ——
 土の上を鈍い靴音が近づいてくる。振り返らないテリオンの横に、学者が並んだ。
 彼はローブの陰から何かを差し出す。
「どうぞ。これはリンゴ園を救ったお礼だそうだよ。キミが外に出てからオフィーリア君たちが配ってくれたんだ。八人では食べきれないほどの量だよ」
 リンゴだった。思わず受け取ってしまう。夜目にも真っ赤に熟れていることが分かった。
 テリオンは傷一つないつるりとした果実の表面を見つめた。静かに覚悟を決めて、口火を切る。
「あんたは俺の正体を知っているな」
 変に探りを入れるのは性に合わないので、単刀直入に勝負をかける。学者は落ち着き払ったまま、
「彼らにはまだ話していないのだね」
 わずかにずらした回答をした。それで話は十分に通じた。
「……必要がないからな」
 そうだ。いざとなれば、薬屋たちなどいつでも切り捨てられる関係だ。
 暗い夜すら照らし上げる青い双眸が、テリオンを真正面から映す。
「今日は本当に助かったよ。改めて礼を言わせてほしい」
 いきなり頭を下げるので面食らってしまう。
「キミは競りの会場で瓶か何かを割り、破片を目印として道に撒いたのだろう。それと前後してトレサ君のリュックから『薬草栽培の手引き』を持ち出し、露店で見た目の似た本を見繕ってすり替えた。そして、競り落とした本物の方をあの路地に残したんだね」
 恐るべきことに、訂正すべき箇所はなかった。テリオンは視線をそらす。
「まるで見てきたように話すんだな」
「状況から推理したまでさ」
 本当だろうか。この学者は遠方を覗き見ることができる、と言われてもテリオンは驚かない自信がある。
「キミがあそこに本を隠したのは……私に居場所を知らせるため、だろう?」
 ためらいがちに発せられた質問は、ある程度予測していたものだ。
「別に、来るのは薬屋でも誰でも良かった」
 とはいえ、村にいる知り合いをテリオンが無意識に頼ったのは事実だ。何故そんなことをしたのだろう。ただ、あの場には自分だけでなく商人がいた。少なくとも彼女に仕事を依頼した学者は必ず探しに来ると思った。……それだけだ。
 隣から浴びせられるやわらかなまなざしがどうにも鬱陶しくて、テリオンはうつむく。
 ややあって、反撃のため唇を開いた。
「あんた、この村や祭りに裏があることを最初から知っていたんだろう」
 この発言にはテリオンなりの根拠があった。鉄壁を誇る学者の牙城をわずかでも崩せるのではないかと期待していた——のだが。
「どうしてそう思うのかね」
 学者の態度は余裕そのものだった。テリオンはひるまずに続ける。
「本を探しに来たのなら、本命の競りを商人に任せるのはおかしい。薬屋に聞いたが、あんたは別行動してハーブや薬草を探してたそうだな。あれを村で栽培していることを、噂か何かで最初から知っていたんだろう。だから商人を一人で行動させたんじゃないか」
 我ながら珍しい長台詞だった。学者はそっとまぶたを伏せる。嫌になるほど長いまつげだ。
「……実際、あの本が競りにかけられる可能性も大いにあった。二手に分かれて行動したのは、少しでもあの本を入手する確率を上げるためだよ。
 それでもトレサ君には余計な迷惑をかけてしまった。まさか町中で凶行に及ぶとは——キミがついていてくれて良かったよ」
 相手の痛いところに切り込んだつもりが、学者はまるで響いた様子がない。それどころか「見事な推理だね。キミも正式に学問を修めれば、きっと才能が開花するはずだ」などとのたまう始末だ。一体どこまで本気なのだろう。
 学者は一層顔を輝かせて身を乗り出す。
「それにしても本のすり替えまでしてしまうとは。キミの業には目を見張るものがあるね。
 ——そこで、ひとつ取り引きを申し出たいんだ」
 テリオンは反射的に身構える。「取り引き」とは、また嫌な単語が出た。ヒースコートにつけられた腕輪の重みを急に思い出してしまう。
「知識と同じように、技術もそれ自体に善悪など存在しない。キミの手を借りて成し遂げたいことがある」
「ややこしい言い回しをするな。はっきり言え」
 弱みを握られている以上、一応話を聞いてやるしかない。学者は苦笑のかけらを口の端に浮かべた。
「それは失礼。私は今日手に入れたような貴重な書物を、他にも数冊探していてね。アトラスダムの王立図書館から盗まれたものなのだが——買い戻せば済むという話でもなく、捜索にはなかなか難儀しているんだ」
「つまり、レイヴァース家と似たような状態なのか」
「そうなんだよ。是非キミの力を貸してほしい」
 アトラスダムの学者先生が一介の盗賊風情に頼るというのか。レイヴァース家といい、近頃の金持ち連中はよほど窮地に追い込まれているらしい。だから、いつでも切り捨てられる盗賊を使うのだ。
 テリオンは一歩学者から離れた。
「取り引きというなら、あんたは俺に何を提供できる?」
 これ以上腕輪をはめられたらたまったものではない。この学者にそんな技能があるとも思えなかったが、警戒を怠ってはいけない。
「キミは竜石を求めているのだろう。その旅路を、私の魔法や知識によって手助けしよう。私はヒースコート氏とは別の情報源を持っているんだ」
 やはりこちらの事情を把握されていたか。テリオンは腹にぐっと力を入れる。
 確かに、この村の秘密に一日でたどり着ける情報網と洞察力は、今後の旅の助けになるだろう。あの魔法だっていささか派手すぎるが魔物相手には役に立つ。
 薬屋たちの同行を許可した時と同じだ。学者の便利さと厄介さを、慎重に天秤にかける必要があった。
 ただひとつ、今までと違う点がある。テリオンが己の正体を旅の連れに隠している限り、この学者は圧倒的優位に立っていた。現時点でこちらに拒否権などない。
(……なら、ここで全部バラしておくか)
 テリオンは決心した。自分は盗賊なのだと話してしまおう。そうすれば、一方的に秘密を握られている今の状況からは脱することができる。さらには余計な連れを切り捨てられるかもしれない。
 じっと答えを待つ学者へ、よく考えた末に返答した。
「俺は自分の正体をあいつらに話す。それでもあいつらがついてくるというなら——その時は、あんたの言う取り引きとやらに応じてやる」
「そうか。分かったよ、テリオン君」
 学者はあっけなく首肯した。文句の一つも言わないとは、まるで自らの勝利を確信しているかのようだ。面白くない。
「あいつらがあっさり受け入れるとでも思っているのか?」
「ああ。少なくとも、旅の仲間が増えることに関してはね」
 オフィーリア君も、ハンイット君も、トレサ君も。みんなキミたちとはもうあれだけ打ち解けているのだから——続けられた言葉は、さすがのテリオンも事実として認識していた。薬屋などは喜んでその提案に飛びつくに違いない。もしかすると、今まさに酒を飲みながら同じような話をしている最中かもしれなかった。
 たった一人からはじまった旅が、四人になり、一気にその倍まで膨らもうとしている。それは大きなリスクを背負うことでもあった。
 そんなものはごめんだ。手に入れたものを他人に分け与えるのは、もうやめたのだから。
 テリオンは持ったままだったリンゴの存在をにわかに思い出し、学者の胸に押しつけた。
「これはいらん。欲しいものは自分で手に入れる」
「なら、酒場に戻って切り分けてもらおうかな」
 この学者は受け取ったものを、あまつさえ他人に分け与えるつもりらしい。テリオンはますます理解できず、疲労を感じた。
 ——もう、どうにでもなれ。これで彼らとの道は別れるのだから。
 テリオンは乱暴に土を踏みしめ、酒場の方へ身を翻す。
「彼らはきっと、キミの正体を知っても同じように接するだろう」
 ぽつり、と告げられた言葉は、あまりにも確信に満ちていた。テリオンは立ち止まり、警戒よりも先に疑問をこぼす。
「何故そう言い切れる?」
 学者は形の良い唇に指を立てた。
「そのくらい、見ていたら分かるさ」
 お得意の探りを入れた結果、テリオンとは正反対の意見にたどり着いたようだ。どうやら二人の見ている世界はずいぶんと違うらしい。
 テリオンの目の前には、出発地も向かう先もまるで違う、交わるはずのない二つの道が伸びている。
「……どうだかな」
 その直後、彼は学者の言葉がほとんど予言であったと理解するのだった。

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