第一章 雨に閉ざされた地



「先に行って異変がないか確認する」――などとシド王子が意気込むものだから、てっきり魔物を蹴散らしておいてくれるのかと思ったら、一匹だけでも苦戦したリザルフォスが山ほど道中に出てきた。どうやら魔物がいる程度のことは異変でもなんでもないらしい。おまけに相手は高所に陣取り、電気を帯びた矢を雨の中で容赦なく浴びせてくる。リンクがエレキ薬をがぶ飲みし、敵を倒す度に落ちた矢や装備を奪ってこなかったら、ここ抜けるのは相当厳しかっただろう。
 というわけで、現在のリンクの装備はリザルスピアにリザルシールドにリザルボウという、完全に魔物仕様のセットになっていた。
 神獣が降らせているという雨は、当然止む気配はない。おまけにいつしか日が落ちて夜になり、リンクは疲弊しきって終始無言でイライラをつのらせていた。
「ご飯……ご飯食べたい……」
 うわ言のようにつぶやく理由は、この雨では火をおこすことができないからだろう。保存食は用意していないらしい。確かに普段ならその必要はないだろう。今までウルフが見てきた限り、このハイラルは自然に恵まれていて、どこに行っても何かしら新鮮な食材が手に入る。だが道中で見つけたリンゴや木の実をかじっても、今のリンクは満足できないようだった。
 いくつもの橋を渡って、川をさかのぼった。もういい加減に着いていいだろうと思った頃、雨でけぶる道の向こうに、水色のぼんやりした輝きが出現した。道中で見かけた夜光石の光だろうか。それが、闇の中にいくつも灯っている。
 つかの間疲労を忘れ、二人は吸い寄せられるように歩を進めた。すると、目の前に大きな大きな橋が現れる。
「うわあ……!」
 リンクの瞳が街の灯を反射して輝く。美しい光景と、それ以上のもので胸がいっぱいになっているようだった。
 ゾーラの里。それは大きな滝を背にして、水の上に浮かんだ都市だった。中央にそびえる魚の形の大きなオブジェは、なめらかな白い石を無限に積み重ねて表面を削り、造形されたようだった。そのオブジェを、水そのもののような優美な曲線を描く通路が取り巻いている。
「何これ、すっごい!」
 感動してパシャパシャ写し絵を撮りはじめたリンクの隣で、ウルフは仰天していた。
(これがゾーラの里だって!?)
 彼の知るゾーラの里は、もっと素朴なものだった。確かに王宮付近にはこのような華麗な意匠もあったが、空中に張り出すような建築物は彼の想像を絶していた。一体どうやってつくり上げたのか、見当もつかない。
 圧倒された二人が入口に立ち尽くしていると、夜でも目立つ緋色がこちらに近づいてくる。
「おおッ! 待っていたゾ、リンク」
 シド王子だ。笑った拍子に歯が光る。リンクは腹を立てるのも忘れて、目をきらきらさせたまま「すごく綺麗な町ですね」と素直すぎる感想を言った。
「ふふ、ありがとう。ようこそ我がゾーラの里へ! 早速キングに紹介しよう。こちらに来てくれ」
 王子だけでなく王様もいるらしい。さしずめ、キングゾーラというところか。
 シドの後ろにくっついて王宮に行く間も、リンクたちはあちこち見回していた。完全に観光客気分だ。
 ウルフは自分に気づく者がシド王子以外いないことに安堵しながら、ふと違和感を覚えた。すれ違うゾーラたちはシド王子に一礼した後、皆不思議そうにリンクの顔を覗き込んでいる。中には話しかけようとする者もいた。リンクは慌てて視線をそらした。
(ゾーラたちはリンクの顔を知っている……?)
 ゆるやかな階段を上ってたどり着いた王宮――あの魚のオブジェの真下だった――の前には、女性のゾーラが槍を構えて微笑む、見事なつくりの像があった。こちらも夜光石を使用しているのか、淡く発光している。
 リンクは興味を示して像を見上げたが、
「さあリンク、こっちだゾ!」シドが遮るように言った。
 王子に導かれ、二人は王宮に足を踏み入れる。
 入ってすぐそこが玉座の間だった。そしてウルフの視界の半分は、そこに鎮座する青いゾーラに占拠された。
(で、でけぇ……)
 キングゾーラはリンクの三倍――いや五倍はありそうな巨大ゾーラだったのだ。服も王冠も、何もかもが規格外に大きい。リンクもぼんやり口を開けていた。あの体躯では玉座からまともに動けないのではないか、とウルフは余計なことを心配してしまう。
「おおっ。ソナタがシドの連れてきたハイリア人か? よくぞここまで来てくださった! ワシはゾーラ族の王ドレファンであるゾヨ」
「こ、こんばんは」
(いやいや、王様への挨拶はそうじゃないだろ)
 緊張しながらリンクが名乗ろうとすると、ドレファン王が目を見開く。
「ん? ソナタの腰のモノ――それはシーカーストーン!? よく見たらソナタ、ハイリア人の英傑リンクではないか! ワシを覚えておらんかの!?」
「へっ」
 ドレファン王のテンションの急上昇についていけず、リンクは若干引いている。
(もしかして、百年前のリンクの知り合いなのか)
 そうだとすると、この王様は百歳をゆうに超えているということだ。
(ゾーラ族ってそんなに長寿命だったのか……)
 ゾーラとは美しくて儚い種族なのだ、とウルフは勝手に思い込んでいたのだが――閑話休題。
 これは、インパに口を酸っぱくして言われていた記憶の手がかりになる。だがリンクはまるで嬉しそうでなかった。
「ハイリア人の英傑? リンクがあの英傑その人なのか」
 どうやらシド王子は知らなかったらしい。リンクはどう見積もっても二十歳すら超えていない外見だから、仕方ない。
「そうだ、リンクという名、確かに聞いた覚えが……これは驚くべき出来事かもしれないゾ!」
 ゾーラの王族二人は騒ぎはじめた。リンクが一言も発さず、目をうつろにさまよわせているのと対照的に。
「それにしても懐かしい……ホレ、ソナタとはかつて幾度も会ったであろう。命運が尽きたと聞いていたが、生きておったゾヨのう!」
 やはり百年も音沙汰がなかったため、死んだことにされていたらしい。リンクはぎこちなく答える。
「え、っと、はい。その……一度死にかけてから、百年ずっと眠っていて。目覚めたのはつい最近です。それと、昔の記憶は何ひとつ覚えていないんです」
「なんと! では、我が娘ミファーのことも忘れて……?」
「ミファー?」
 初めて聞いたという顔をするリンクを見て、ドレファン王は胸の痛みをこらえるような表情になった。
「あんなにソナタと仲の良かったのに……この里の風景やミファーの像を見ても、何も思い出さんゾヨ?」
「……ごめんなさい」
 うつむいた拍子に、リンクの前髪から雫が滴り落ちた。ミファーの像とは、先ほどリンクが気にしていた女性像のことだろう。
「何かのきっかけで思い出すこともあるかもしれんゾヨ。できれば――」
「父上! ここで姉上のことは……。リンクも混乱していますゾ」
 ナイスタイミングでシド王子が遮った。それを契機とし、ドレファンも心を切り替えたらしい。
「おお、そうよな……。それにしても、知らずに英傑を連れてくるとは。シド、お前もやるゾヨ!」
 ドレファン王はジャブフフフッと水混じりの笑い声を立てた。
 そしてやっと本題に入る。
「リンク、ソナタも大変であろうが、ワシの話を聞いてほしい」
「……はい」
「実は今、この里は水の神獣ヴァ・ルッタのせいで、存亡の危機に見舞われておるゾヨ。単刀直入に言うと……ワシらだけではどうにもならんゾヨ! ソナタの力、貸してはくれまいか」
「ななッ!?」
 王の顔よりもかなり下の方からいきなり声が上がったので、ウルフはびっくりした。今まで全く気づかなかったが、玉座の間には王族と勇者一行の他にも、ゾーラがいたのだ。
 老人らしい。平たく潰れたような顔で、体表はくすんだ色味をしている。こちらは大臣というところか。
「お待ちくだされドレファン王! ハイリア人に助けを求めるなど、ゾーラのヒレが折れるというもの」
 すかさずシド王子が反論した。
「言葉を慎めムズリ! この大雨の中、頼れるのはハイリア人しかいない。この前皆で決めたではないか! リンクならオレたちに力を貸し、この里を救ってくれるに違いないゾ」
「そうゾヨ。リンクは紛れもなき英傑! 今はこの里が……いや、ハイラル全土が水に呑まれるかもしれぬ危機的状況。ここはゾーラもハイリア人もない。謙虚にヒレを畳む時ゾヨ」
 王族二人から叱責が飛ぶ。それでもムズリは反駁した。
「ドレファン王はもうお忘れになられたゾラ!? ハイリア人どもは信用できませぬ」
 よく見るとムズリの皮膚には深いシワが刻まれている。彼もきっと百年の時を生きてきたに違いない。
「百年前、古代文明の力なぞ持ち出してハイラルをこんなにしてしまったのですゾ!」
 古代文明の力とは、シーカーストーンやプルア博士の研究のことだろう。確かに百年前、ガーディアンたちはことごとく厄災に乗っ取られた。古代遺物さえなければ被害は少なかったのでは、という声は否定できないだろう。
「しかも――」ムズリはがっくりと肩を落とし、「ミファー様まで、帰らぬ人となってしまった……」
 リンクは喉を動かす。シド王子の姉で、ドレファン王の娘――すなわちゾーラのお姫様が犠牲になったということだった。
「あ、あの、僕やっぱりお邪魔なんじゃ」
 リンクが怖気づいた発言をすると、ドレファンはかぶりを振った。
「リンク。ルッタは水の神獣――無限に水を生み出す力を持っておるゾヨ。最近突然水を吹き上げだしたせいで、このあたりは激しい雨が続いている……」
 無限に水を生み出せるなんて、砂漠の真ん中に持っていったら感謝の嵐だろうが、水源のある高台で許容量を超えて水をつくり続けられたら、それはもう迷惑でしかない。
 そういえば、何故「最近」なのだろう。まるでリンクの復活に合わせて、神獣も活動をはじめたようだった。
「もともと我らゾーラにとって、水は空気も同然。それだけなら困ることもなかったゾヨが……東にある貯水湖があふれそうなのだ! もし貯水湖が決壊してしまったら、この里はもちろん川下に住む者たちにも甚大な被害が出るゾヨ」
 その時、玉座の間が大きく揺れた。王たちが一斉に視線をやった方向に、ウルフも注目する。
 ゾーラの里の外に、白い壁のようなものが見えていた。その向こうに貯水湖があるらしい。
「むぅ……また神獣が吠えているゾヨ。水の神獣ヴァ・ルッタ、か――ソナタらの姫ゼルダ殿は、厄災が現れる前に神獣についてもよく研究されておったゾラ」
 いきなりゼルダ姫の話題が出た。どうやらなかなか活動的な姫だったらしい。
「ゼルダ殿の書かれた書物によれば、ルッタの肩にある装置が、電気によって水を制御するカラクリらしいゾヨ。だが今は暴走して電気が流れておらんゾヨ」
 シド王子が説明を引き継ぐ。
「事実、セゴン爺という者がルッタの肩に電気の矢を当てた時は、確かに水は弱まった! だがオレたちは水棲の一族――セゴン爺とて、電気の矢を扱うには限界が……。結局ゾーラの扱える電気では足りなかったのか、ルッタの水の勢いは戻ってしまった」
 なるほど、だから弓を扱えて電気にもそれなりに強い、ハイリア人の助っ人を探していたのだ。
(でもリンクの矢の命中率で大丈夫なのかな……)
「もう言わなくても分かると思うが、リンク……電気の矢でカラクリを起動させてくれ! もちろんオレがサポートする。一緒にルッタを止めてくれないか!」
 熱い申し出を受け、リンクは渋々、口を開いた。
「実は……僕も、神獣には用があります。あの中に入って、神獣を鎮めなければならないんです」
 やはり、勇者としてやるべきことをインパに言われていたのだ。リンクはここまで来たら仕方ない、と観念したように話す。
「黙っていましたが、僕はゼルダ姫に導かれて、ここに来ました」
(……本当かぁ?)
 明らかにゾーラの里に来るのを嫌がっていたし、ここまで導いたのはむしろウルフだった。それに、リンクはゼルダ姫とどうやって連絡を取ったのだろう。
「ぜ、ゼルダ殿は生きておられるのかゾヨ?」ドレファンは身を乗り出す。
「彼女は、ハイラル城で厄災を封印しているんです。百年もの間、ずっと……。僕が目覚めたのは彼女の声を聞いたからでした。理屈はよく分かりませんが、たまに声が届くんです」
 どうやらゼルダから一方的に連絡があるようだ。
「あれ、でもウルフくんが来てから声聞いてないな……?」
 と彼は首をかしげたが、王族たちから真剣なまなざしを注がれていることに気づき、話を続けた。
「えーっと、とにかく今のゼルダ姫の様子は分かりませんが、ハイラルが滅びていないということは、姫はずっと厄災の中心におられるのだろう……とシーカー族は言っていました」
 ドレファン王は感動で身を震わせた。
「なんとなんと……そうであったか! 百年前はあのような結末になってしまったが、神獣の中に入りこちらの手に取り戻せば、ガノンを封印する手助けになるやもしれんゾヨ」
「そう、ですかね」
(そうだそうだ、絶対そっちのが楽だぞ)
 ガノンに直接挑むよりも勝率が上がるではないか。リンクはそんなこと微塵も考えておらず、ただ単に神獣攻略が嫌だと思っているらしいが。
「リンクにもそんな目的があったのだな……よし、オレも協力するゾ!」
 シド王子はあっさり言い放った。彼が発言すると、全く安請け合いに聞こえないのが不思議なところだ。
「暴走が止まれば乗り込むこともできる。リンク、一緒にルッタを鎮めよう!」
「はい。こちらからも、よろしくお願いします」
 リンクは硬い表情で頭を下げた。
「ありがとうゾヨ! 我らの目的がほぼ同じとは、これも運命なのかもしれぬな」ドレファン王は微笑み、「善は急げというゾヨ。ソナタに受け取ってほしいものがあるゾヨ」
 シドに目配せした。
「父上! まさかあれを……?」
「リンクになら託せる。ここに持ってくるゾヨ」
 玉座の間から出て行ったシド王子はすぐに戻ってきた。その手に抱えているのは、水色の布地と銀の金属部を持つ、服のようだった。
「ゾーラの鎧といって、それを着ていればハイリア人でも我らゾーラのように滝のぼりができるゾヨ」
(ああ、ゾーラの服みたいなものか)
 ウルフがかつて手に入れた服は、キングゾーラが勇者のためにつくらせたというもので、水中でも呼吸ができるようになる不思議な力を持っていた。滝のぼりとは、またすごい能力だ。
「僕がもらっていいんですか……?」
「構わんゾヨ。どうか、大切にな」
 王は妙に含みのある目線をリンクへ向けた。
「ドレファン王! ゾーラの鎧を渡すのですか!?」
 途端にムズリが大声を上げる。
(あ、まだいたのか)
「それは代々ゾーラ族の王女が、将来婿になる男に渡す誓いの鎧! ミファー様が自らの手でつくられた、大切なモノですぞ。それを英傑であったとはいえ、何の関係もないこの男に渡すなど、なんたること!」
 リンクはぎょっとする。「そんなものをホイホイ渡すな」と顔に書いてあった。
(ん……? 王女が婿に渡すってことは、ゾーラ族が着るためのものだよな。なのに、どうしてハイリア人にも効果があるんだろう)
 ウルフは脳裏に疑問を浮かべた。リンクは真っ青になって、
「王様、そのような鎧は受け取れません」
「いや、これはもうソナタのものゾヨ」
 その発言には王族特有の強制力が表れていた。リンクは唇を噛んで萎縮する。
「あんまりです。ワシは納得いきませんゾ!」
 ムズリは憤慨して玉座の間を出ていってしまった。
「むぅ、ムズリめ……」
「あのー、今の人は誰なんですか?」
「あれは我が娘ミファーの教育係だったゾヨ。ワシら肉親と同様に、ミファーのことを心底大切に思ってくれておるのだ。だから大厄災でミファーを失った時、ハイリア人嫌いが決定的になってしまったゾヨ。ムズリの失礼を許してやってほしいゾヨ」
「いえ。ムズリさんの言うことはもっともです」
 リンクは今すぐにでも鎧を返したくてたまらないようだった。
「そういえば、ルッタを沈めるのに必要となる電気の矢をムズリに探しておくよう命じておいたが……出ていってしまったゾヨ」
 するとシド王子が一歩踏み出した。
「リンク! ムズリはオレが説得するから、ちょっと待っていてくれ。キミは長旅で疲れているだろう? 宿をとっておくから、今日は十分に休んで、また明日話をしよう」
 シドは元気よく走っていった。リンクは「やっと解放される……」という安堵を全身から発していた。ゾーラの鎧を持つ手が、重そうに下がっている。
「シド……あの話をするつもりゾヨな」
 雨音に混じっていたが、ウルフの耳は確かに王のつぶやきを拾った。そしてドレファン王は、
「リンク。もちろん休んでからで構わぬが、シドのもとに行ってやってくれぬか。説得にはソナタが必要ゾヨ」
「分かりました。ではお言葉に甘えて、失礼します」
 その気になれば、いつもは傍若無人なリンクも、そこそこの言葉づかいはできるのだった。
 王宮から出ると、夜は更に深まっていた。リンクは人目もはばからずに大あくびをした。
「とりあえず……宿に行こうか」
 彼は疲労でぼんやりしているようだった。いろいろと考えるべきことは山積みだったが、ウルフもさすがに限界だった。ゆるい下り階段にすら足を引っかける始末だ。
 何かとリンクに話しかけたがるゾーラたちを全て無視して、二人は「さかなのねや」という名の宿に向かった。
「シド王子から聞いています」「どうぞごゆっくりなさってください」などと宿の主人もフレンドリーに接してきたが、リンクは「ありがとうございます」の一言でさらりと受け流す。
 ゾーラの経営する宿ということで、水の中に案内されたらどうしようかと思ったが、シド王子のおかげかきちんとハイリア人用の個室をあてがわれた。部屋に用意されていた乾いた寝具と布の山を見て、リンクは本日最後の歓声を上げる。真っ先に彼は一枚布をとり、ウルフの濡れそぼった毛皮を拭いた。
「お疲れさま。今日はありがとう」
 普段ならあまりリンクにべたべた体を触らせたくないが、今は疲れ果てていてどうでもよかった。布を持つリンクの手つきは丁寧で、案外心地よい。
(里まで連れて来て面倒に巻き込んだのは俺なのに、案外そのことを責めないんだな……)
 ウルフはぼうっと考えていた。
 服はどうがんばっても乾きそうにないので下着だけ替えて、リンクはパンツ一丁でベッドに潜り込んだ。ウルフもそれに文句は言わず、リンクが拭き残した水滴を布にこすりつけて、床で丸くなった。
 水の神獣ヴァ・ルッタ。結局、それがどのようなものかは分からなかった。いずれは戦う羽目になるのだろうか。
(まあ、なんとかなるだろ)
 百年前の英傑リンクは、少なくともゾーラ王には信頼されていたようだ。そうやって寄せられる思いを、リンクが重荷に感じていなければいいのだが。荷物台に無造作に放られたゾーラの鎧が、ぽたりと床に雫を落とす。
(こいつでなんとかならなかったら、俺がやればいいだけだしな……)
 そんなことを考えていたら、あっという間に眠りの世界へと引きずり込まれた。
 深い深い眠りだったにも関わらず、彼は夢を見た。

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