第二章 つながりとまじわり



 濃霧の立ち込める不思議な空間に、リンクとクロスは再び迷い込んでいた。
 眼窩に赤い光を宿した骸骨剣士が霧の中から姿を現す。
 彼がまとっているのはハイリア兵の鎧だ。それも相当に高位のものだ、とクロスには分かる。
 リンクが無言で前に出た。
「……ついに時は満ちたか」
 剣士は厳かに切り出した。
「お前に教える奥義もこれで七つ目。最後の奥義は、使う者の真の勇気が試される究極の秘技。真の勇者のみが得られるこの奥義、お前は手にしたいと願うか?」
「あ、ああ」
 魔王との決戦の直前にも関わらず、いつもどおりの発言だ。リンクもいい加減疲れているだろうに、律儀に剣を構えた。
 完全に部外者のクロスは口を挟む余地などなく、ただただ見守るだけだ。
「よかろう。では最後の奥義……大回転斬り、しかと体に刻め!」
 剣士が重々しくうなずき、最後の稽古が始まった。
 わざわざこのタイミングで奥義を習得する必要などあるのだろうか。付け焼き刃で手に入れた技術が土壇場で役に立つのか、クロスには甚だ疑問である。
 距離感の曖昧な空間で剣をぶつけ合う二人を、クロスはぼんやりと観戦していた。
 蓄積した疲労により意識が揺らぐ。次第に目の前がぼやけて、別の景色が重なっていく。
(あれ……?)
 不意に、クロスは眩しい光に包まれた中庭を幻視した。
 例の開かない扉が奥にそびえる、屋敷の中庭だ。燃えるような赤い髪の男と小さな男の子が、木刀を手に稽古をしている。色鮮やかな幻想の中で、あの黄色い花はまだ咲いていないようだ。
 男が軽く木刀を振り抜くと、子どもの手から得物がすっぽ抜ける。幼いクロスは中庭のベンチから立ち上がり、小休止に入った二人に大股で歩み寄った。
「どうしてこの子ばっかり稽古をつけるの。私なら、絶対もっとうまくできるのに!」
(え)
 子どもの彼女自身が驚愕の台詞を吐きながら赤髪の男——父親に突っかかる。
「ははは、クロスにはまだ早いだろう」
 父親が大きな手でぽんぽんと少女の頭をなでた。
 思わずその面相を確認したが、ガノンドロフとは似ても似つかぬ柔和そうな顔をしていた。魔王はどうやら乗っ取った体の外見を変えることすらできるらしい。
「この子は私よりちっちゃいよ?」
 指をさされ、むっとした様子で幼いクロスを見上げるのは金髪の男の子だ。どこかで見たような空色の瞳をしている。
「クロスは女の子だからなあ。体ができる前に鍛えたら背が伸びないぞ」
 笑顔で言う男だが、きっとそれは方便だ。娘を戦いから遠ざけたかったに違いない。あの父親のことだから。
 それにしても、この男の子は一体誰なのだろう。もしや彼がクロスの——
 がくりと首が揺れて、彼女は立ったまま眠りかけていたことに気づく。視界は見渡す限りの霧の中に戻っていた。
(今の光景は一体……)
 心臓がうるさく音を立てはじめる。あれがクロスが忘れ去った過去だとするならば、よくよくその意味を考える必要がある。
 混乱する彼女を放置したまま稽古は進んでいた。骸骨剣士はいつの間にか、なんと三体に分身していた。
 リンクは落ち着いて片足を踏み込み、姿勢を低くする。剣を持った左手を後方に伸ばした次の瞬間、体のまわりにすばやく軌跡を描く。鋭い斬撃が繰り出され、三体の幻影を同時に打ち破った。
 奥義によって跳ね飛ばされた剣士はぎこちなく起き上がり、骨だけの顔で笑みをつくった。
「……見事な技だ。最後の奥義大回転斬り、確かに伝えた!」
 リンクは剣をしまってゆっくり息を整える。
 骸骨剣士は満足げにうなずいた。
「ついに、全ての奥義を手にしたな。
 勇者として生を受けながら後世にそれを伝えることのできなかった我が無念も、ようやく晴らすことができた」
「えっ」
 リンクとクロスはそろって口を開ける。
 勇者として生を受けた? ならば、この剣士が先代の勇者なのか?
「幾多の戦いを経てなお、曇りなき眼で未来を見据えるそなたなら、必ずやこのハイラルを在りし日の神々が愛でた大地に戻すことができるだろう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
 慌てて駆け寄るリンクに構わず、骸骨剣士が背を向ける。
「……さらばだ。怯まずに進め、我が子よ!」
 リンクの唇から息が漏れる。クロスも同時に衝撃を受けていた。
 骸骨剣士は終始、リンクだけに話しかけていた。なのに彼はクロスをこの場所へ呼び寄せた。それは何故なのか。
(もしも本当に、リンクさんがあの剣士の子どもだとするなら)
 消えてしまった自分のきょうだいというのは——はっとして、彼の背を見つめる。リンクはつい先ほどまで骸骨剣士のいた場所を眺めて途方に暮れていた。緑の長帽子からばさばさした前髪がはみ出している。
 クロスの義母はそう、こんな麦穂色の髪をしていた。
 幼き日のリンクは、気づけばラトアーヌの泉にいたという。あの剣士は息子をそこまで連れて行ったのか? 一体何のために。
 子どもたちに何も教えないまま、一方的に託していくなんて——
(そんなの、ずるい)
 失踪した理由なんてどうでもいいから、帰ってきてほしかった。誰もいないあの広い屋敷で、クロスは一人きりでずっと待っていたのに。
 でも、リンクだけは巻き込めない。彼には彼の故郷が、生活がある。クロスは自分の大切なものを絶対に譲らない代わりに、他人にそれを押しつける気もなかった。
 それに、立場を明かせばクロスの義母——リンクにとっての実母の話をしなければならなくなる。それはある理由により、彼女にとって非常に打ち明けづらいことだった。
 霧が晴れる。二人は半ば魂の抜けた状態でハイラル城に戻ってくる。
「おつかれさま」
 待っていたマリエルが平然とした顔で迎えた。彼女には、別空間に呼ばれた二人がどのように見えたのだろうか。
「……結局なんだったんだろうな、あの剣士」
 リンクは力なくかぶりを振った。相次いだ告白により、彼の脳内は盛大に混乱しているに違いない。
「クロスさんも、変なことに巻き込んでごめんな」
「いえ……」
 むしろこちらなのだ、リンクを巻き込みかねないのは。
 しかし魔王に挑む直前に、彼の心を乱すようなことは絶対に言えない。クロスは唇を引き結ぶ。
 リンクは軽く肩を回して階段の上を仰ぎ見る。
「俺、この先に行くよ。クロスさんは?」
「家に帰ります。目的は達成しましたし、もう疲れてしまって……あなたのお役には立てそうにありません」
「そんなことないって。来てくれて嬉しかったよ」
 リンクはからりと笑った。黄昏色の光が髪をキラキラと輝かせる。
「今まで何も聞かないでくれてありがとう。全部終わったら、ちゃんと話すよ。紹介したい人もいるんだ」
「それはもしかして、あなたの影の中にいる人のことですか」
 リンクは目を丸くした。
「気づいてたんだ……」
 当てずっぽうだったが正解らしい。また、リンクの影が揺らいだ。
 クロスは床から視線を移し、彼の青空のような瞳を見上げる。
「やることが終わったら、うちに帰ってきてください。私はいつでも待っていますから」
「ああ。行ってくる!」
 リンクは一歩一歩階段を上っていく。その姿を最後まで見届けることなく、クロスは身を翻した。
 これで当初の目的は果たした。しかし、達成感よりも疲労感の方が強い。まるで発熱しているかのように頭が重かった。
 ずっと黙っていたマリエルが、腕組みしたまま横目でクロスを見やる。
「……あいつに何も言わなくて良かったの。家族のこと、ずっと探してたんでしょ」
「どうしてそれを?」
「だってさっきのオオカミってシークじゃ——あっ」
 マリエルは口元を押さえる。クロスはじろりとにらんだ。
「やっぱり知っていたんですね」
 彼女はバツの悪そうな顔になった。
「仕方ないでしょ、見たら分かっちゃったんだから。
 にしても、あなたが勇者のお姉さんなんてねえ。顔は全然似てないのに。ね、本当に教えなくていいの?」
 姉、か——他人にそう表現されると、余計に胸に刺さる。
 シークはきっとこの事実を伝えるためにクロスにカギを渡したのだろう。無駄に手の込んだことをするものだ。そして、言いたいことだけ言って勝手にいなくなってしまった。
「いいんです、これ以上関わっても仕方ありません。リンクさんには自分の生活がありますから」
 マリエルは肩をすくめた。
「分かったわ。あたしとしても、変に勇者と接点を持つのは真っ平だし。
 じゃあ、下の連中も連れて帰りましょうかね。ここで引き返して正解よ、あなたがまともに魔王と対峙したら一歩も動けないところよ」
 そう言ってきびすを返したマリエルが、ふと首を上向けたまま固まる。
「マリエルさん?」
 目線の先を追ったクロスは瞬きをした。
 虹だ。朝から続いていた小雨が晴れて、黄昏の空に大きな虹が浮かんでいる。彼女は傘の内側からそれを眺めた。
「——の勇者はちゃんとあれを掴んだのかしらね」
「はい?」
「ごめん、なんでもないわ。戻りましょう」
 すたすた歩く彼女の後を追いたい気持ちは山々なのだが、頭も体もドロドロに疲れたクロスはもうその場に座り込んでしまいたい気分だった。それでもなんとか城の中に戻って傘をたたみ、マリエルに頭を下げた。
「すみません、家まで私を背負ってくれませんか」
「え!? なんであたしが」渋る悪魔へ、
「あとでクッキー作りますよ」
「引き受けたわ」
 マリエルはあっさりうなずいた。こんなに簡単に釣られていいのだろうか、と呆れつつもクロスは遠慮なく彼女の背に体重を預けた。見た目は細いのに、妙に安心できる背中だ。
 布越しにあたたかい体温が伝わってきて、疲労が溶けていく。猛烈な眠気が襲ってきた。歩く振動すら、ゆりかごのような心地よさがある。
 今にも寝そうになっている彼女を背負ったマリエルが、ぼそりとつぶやく。
「クロスさんは、みんなに帰る場所を作ってあげられるのよね。シークの言ってた名付けの由来はそういう意味だったのかしら。
 あたしも、だからあなたを——」
 クロスはその声を子守唄代わりにして眠りに落ちた。



 まぶたの向こうに光の気配を感じ、ノアは上半身を起こした。
 耳の近くで水音がした。何ごとかと片腕を持ち上げると、袖からしずくがしたたり落ちる。彼はつま先から髪の毛までびしょ濡れになっていた。
(ここはフィローネの泉か……?)
 森の奥にある、光の精霊が住まうという泉だ。水面が空の色を写してオレンジ色に染まっている。ということは夕暮れ時か。ノアはどうやら仰向けの状態で浅い水に浸かっていたらしい。
 前後の状況が分からずやや混乱した。小さな滝をいくつも引きながら立ち上がる。服の裾が破れてその下に肌が覗いていることに気づいた。
 早朝、森で魔物と戦っていた時にそのあたりを負傷した覚えがある。武器を振るいながら後退を続けた彼は泉の前にさしかかり、その水で怪我を癒そうと考えた。しかしそこで体力が尽きたのか、泉に浸かったまま意識を失っていたらしい。溺死したり魔物に発見されたりしなかったのは、珍しく運が味方してくれた結果だろう。
 夜明け前、キコルをトアル村に避難させた彼は一人でフィローネの森に飛び出した。一体多数というこの圧倒的不利な状況を覆すには、まともに戦ってはいけない。そう考えて、まずはキコルの小屋をやぐら代わりに屋根から矢を射かけ、空を飛ぶカーゴロックを優先して潰した。その後は進撃するボコブリンやブルブリンたちを追いつつ、木の陰に身を隠してボウガンを放ち、あるいは背後から切りかかってひたすら数を減らした。
 ノアの働きはある程度の成果を見せた。太陽が高く上ってからも、魔物を森の中で足止めできたのだ。
 だが、彼が眠りに落ちていた間に、状況が一変している可能性がある。あたりに魔物の気配はなく、夕刻の森は静けさを取り戻していた。もしや光の精霊までも不在なのか、と思ってしまうほどだ。
(村はどうなったんだろう)
 ノアは軽く服を絞ると、泉に向かって一礼してから南を目指した。このあたりも魔物に荒らされた形跡はない。そろそろ例の断崖絶壁が見えてくるはずだ。
 木々の間を抜けたノアは立ち止まった。
 目の前に広がる景色は、想像とまるで違った。吊り橋はそのまま残っていた。
(どうして……)
 自分が渡った後に落としてくれ、と頼んだはずだった。村の安全を確保するなら、それが最善手だったのに。
 崖の対岸で複数の人影が動いている。ノアは駆け足で橋を渡った。
「ノア殿、無事だったんじゃな」
 最前列で待っていたボウ村長が真っ先に声をかける。
 そこにいるのはトアルの村人たちだった。手に手に武器やその代わりの農機具を持ち、震えながらも魔物に立ち向かう姿勢だ。ボロボロの格好の割に怪我をした様子のないノアを見て、皆ほっとしている。
 ノアは軽くうなずき、問いかけの意味を含んだ視線を村長に返した。
「ワシらは一度魔物たちに村を好きに荒らされておる。今度こそ、自分たちの手で守りたいんじゃ」
 だから他人任せにはしない。自ら戦うのだ、とボウは告げた。
 ノアは無表情のまま、ひそかに息を呑む。
(強い人たちなんだな)
 リンクが育った村は、そういう人々が集う場所なのだ。形容しがたいものが急に胸にこみ上げてきて、ノアは戸惑った。
「ノア殿の足止めのおかげでこちらも十分に態勢を整えられた。あともう少しだけ、力を貸していただけないか」
「はい」
 ノアは剣を抜き、吊り橋の前に立つ。乾きはじめた前髪をわずかな風が揺らした。
 対岸にある木々の切れ目に、小鬼のような魔物が現れた。その数は続々と増えていく。
(数が減っていない……?)
 あれだけ倒したのに最初と勢力が変わっていないのではないか。彼は動揺が周囲にばれないように細心の注意を払う。
(違う、減った分をフィローネの森の奥で補充したのか)
 天を衝くような大樹がそびえる森の真っただ中に、ボコブリンの集落があったはずである。魔物の本隊がそちらに出向いたおかげで、反対方向にある泉で寝ていたノアは無事だったのだ。
 両者は吊り橋を挟んでにらみ合った。魔物がなかなか踏み込まないのはこちらの出方を伺っているのだろう。ごくり、と誰かの喉が鳴った。
 その時、魔物たちの背後で、太陽と見紛うようなまばゆい光が膨れ上がった。
「何だ!?」
 村人たちは「新たな攻撃か」と身構えるが、光はすぐに消えた。こちらに被害はない。
「あいつらの様子がおかしいぞ」誰かから声が上がる。
 魔物たちは崖の前で足を止め、キョロキョロとあたりを見回している。まるで、突然戦意をなくしたかのように、その手の武器を力なく下げたまま。
 ノアははっと思い当たった。
(まさか、キングブルブリンが倒されたのか?)
 頭目を失ったことがどういうわけかここまで伝わり、ブルブリンたちが一斉に士気を失ったのか。いや、それでもボコブリンはキングの傘下ではないはずだ。では何故——
「見ろ、泉が!」
 村人の一人が背後を指さした。沈む太陽よりもはるかに強力な光が、吊り橋のそばにあるラトアーヌの泉からあふれている。
 ボウが身を翻し、泉に向かう。ノアはその場に残って魔物を牽制するつもりが、ボウに腕を引かれて一緒に移動した。
 泉のそばにある岩に魔法の紋様が浮かび、この世ならぬ存在が舞い降りる前触れを示す。先ほど森の向こう——北の方角に現れた光とよく似ていた。
「……たった今、勇者によって魔王が討伐されました」
 大きな角を持つ山羊が泉に降り立ち、言葉を発した。「このあたりの魔物もじきに撤退するはずです」
 男性でも女性でもない不思議な声だった。その山羊の持つ圧倒的な存在感に、人々は同時に正体を悟る。
「ラトアーヌ様!?」
 その精霊の名を冠する地方に住む彼らも、初めて本物を見たらしい。村人たちは一様に目を丸くしていた。
 ラトアーヌの視線は、何故かノアに向けられている。彼も静かに翠の目で見つめ返した。真正面から光を浴びているのに、何故か眩しくない。柔らかいベールに包み込まれるような安堵を覚える。
「勇者? それに魔王とは——」
 事情を飲み込めずに戸惑うボウ。ノアは疲労を忘れて一歩踏み出す。
「リンクがやったのか?」
 ラトアーヌはうなずくように頭を縦に振り、そのまま光そのものとなって消えた。あたりに静寂と夕闇が戻る。
「ノア殿は、リンクについて何か知っておるのか」
 ボウの問いに、ノアはうつむいて黙り込むしかない。リンクは村人たちに勇者の話を伏せていたのに、つい余計な発言をしてしまった。ボウは彼が話したがらない理由を察したのか、それ以上追及してこなかった。
 吊り橋のたもとに戻ると、残っていた村人たちが口々に「魔物が何故か退却していった」と報告する。確かに対岸は完全に無人になっていた。
 ボウが村人の中から一人選び——ノアも立候補したが却下された——森の外まで偵察に行かせた。ほどなくして、血相を変えて戻ってくる。
「おおい、大変だぞ。ハイラルのお城のてっぺんが……!」
 魔物の姿がなかったことに喜んだのもつかの間、遠目にもはっきりと見えるはずの尖塔が姿を消していたらしい。
 平原の向こうでも、フィローネ・ラトアーヌ地方と負けず劣らずの事態が起こったのだ。おそらくは勇者と魔王の決戦が。
 お城で何があったんだろう、ゼルダ姫様は無事なのだろうか、リンクは今頃どうしているか——皆は一斉に疑問を口にし噂話をはじめる。その表情に悲壮感はなく、明るさが戻っていた。
 ノアはそっと瞳を閉じた。山の端に消える寸前の、最後の黄昏がまぶたの裏に宿る。
 とにかく自分はリンクの代わりにトアル村を守り抜くことができた。忘れられた里で彼にかけた迷惑も、これで取り返せたのならいいのだが。
 そろそろ、城下町にも帰ることができるだろうか。魔王がいるせいで町に入れなかったとするならば、可能性はある。そうしたら観光協会の長であるラフレルに会って、多くのことを報告しなければならない。
 ノアの長い長い仕事の終わりが見えていた。



 自分の屋敷に帰り着いたクロスは、玄関ホールのソファに座ってひたすら眠気をこらえていた。
 マリエルはクロスを無事に帰した途端に「疲れた」と言って自室にこもった。彼女のためにお菓子を用意してやろうと思いつつ、体は疲労で動かない。
 城からの退却の道中、クロスは太平楽に眠りこけていた。が、その一方でマリエルにはそれなりの試練があったらしい。
 というのも、ラフレルたちを連れて城から脱出した途端に、本丸の最上部で爆発が巻き起こったのだ。リンクが魔王と決戦を繰り広げていたはずの場所が、すっかり吹き飛んでしまったという。城の庭には瓦礫が降り注ぎ、当然町は大騒ぎになって、ラフレルたちはその対応に駆け出していった。そんな中、クロスを抱えたマリエルは面倒事に巻き込まれる前に抜け出してきたわけだ。
 窓から差し込む黄昏が闇に沈んだ。二日連続で異変に襲われた城下町は、死に絶えたような静けさに包まれていた。
 落ちるまぶたをむりやりこじ開けてじっとしていると、ホールに控えめな呼び鈴の音が響いた。それこそ待ち望んでいた音だ。クロスは足をもつれさせながら扉を開く。
「ただいま、クロスさん」
 薄汚れた緑の衣が姿をあらわす。リンクは疲労をにじませつつも、明るい顔で帰ってきた。
「おかえりなさい」
 クロスは掛け値なしの笑顔で迎えた。
 ついに魔王は倒された。これで、何もかも終わったのだ。
「居間で休んでください、何か用意しますから」
「悪いな、助かるよ。でもその前に——」
「部屋を一つ貸してほしいんだ」
 耳慣れぬ声がした。リンクに続いて背の高い女性が屋敷に入ってくる。
 妖艶という表現がぴったりの風貌だった。それもそのはず、凹凸のはっきりした体にぴたりと張り付く薄衣を着て、足や胸元は大胆に露出している。衣から覗く肌は青白いが、何故か不健康には感じない。リンクよりも背が高く、目元が切れ上がった風格のある美人で、クロスは思わず背筋を伸ばした。
 おまけに彼女が両腕で抱えているのは、
「ゼルダ姫……!」
 こちらは黒い美女とはまた違い、女神が降臨したかと思うような別次元の美貌を晒していた。が、きらびやかなドレスはどこか埃っぽく、ぐったりとまぶたを閉じている。
 そう、彼女の体は長らくシークとして活動していた。クロスはシークに対する数々の無礼を思い出して青くなる。
 リンクが慌てた様子で説明した。
「大丈夫、疲れて寝てるだけだってさ。ハイラル城から助け出したんだ。ベッドに寝かせてあげたいんだけど……」
「もちろんです」
 昨夜リンクが泊まった部屋に運んでもらう。ベッドで穏やかな寝息を立てる姫を見て、クロスは「城から囚われのお姫様を助けてくるなんて、おとぎ話そのままだな」と場違いなことを考えた。そんな物語の登場人物たちが自分の屋敷にそろっているのは、今さらめまいを覚えるような事実だった。
 姫を休ませた三人は居間に戻ってくる。
「で、クロスさんに紹介したい人っていうのがこいつ。俺の相棒ミドナだ」
 黒い美女はクロスに手を差し出した。
「よろしく。ワタシがずっとリンクの影にいたのさ。アンタのこと、疑って悪かったよ」
「よろしくお願いします……?」
 握り返しながら、クロスは語尾を上げる。疑う、とは聞き捨てならない言葉だ。
 ミドナは喉の奥でクッと笑った。
「だってアンタ、センス能力があるのに変にこっちの事情に踏み込み過ぎないし、怪しさ満点だったから」
「はあ……」
 下手な行動を起こしたら彼女と敵対していたかもしれないのか。マリエルから勇者の情報を仕入れていたのは、予想外に危ない綱渡りだったらしい。
 リンクがとりなすように、
「気にしないでくれよ。ミドナは用心深いだけだから。
 俺はずっとミドナを影に宿しながら、旅をしてたんだ。そしてハイラル城を乗っ取っていた影の僭王ザントと、魔王ガノンドロフを倒したってわけだ」
 さらりと流された重大な事実に、クロスはしかしあっさりとうなずいた。
「魔王のことはだいたい知っています。影のなんちゃらは初めて聞きましたが」
「え、嘘!」「やっぱりか……」
 リンクは仰天し、ミドナは唇を吊り上げる。
「ハイラルの隣には影の国っていう別の世界があって、そこのお姫様がミドナだった。でも影の国でザントが反乱を起こして——」
「ワタシは負けたんだ」と静かに本人が話を引き継ぐ。「侵略のためにハイラルに渡ったザントを追って、ここに来た」
 ミドナは姫というよりもはや女王の風格だ。別世界においてはゼルダ姫と同じ立場だったということらしい。
「リンクさんとはどうやって出会ったのですか」
「アンタはこいつがオオカミに変身できることも、トワイライトのこともおおかた知ってるんだろ。リンクとはトワイライトの中でたまたま出会ったんだ。こりゃあいい戦力になると思った。で、餌で釣って強引に言うことを聞かせて、一緒に影の国でザントと戦った。
 そうしたら、実は魔王が裏でザントを手引きしていたことが判明した、っていうわけさ」
 なるほど、そういう構図になっていたのか。魔王が城にいるのにどうしてリンクがあちこち出歩いているのか、不思議だったものだ。マリエルが以前言っていた「城から抜けた別の気配」がそのザントとやらだったのだろう。
 アッシュたちはそのあたりの事情を知らないままだったに違いない。知っていればリンクを中心に据えて行動していたはずだ。リンクとミドナは、本当に二人きりで魔王に対抗していたのだ。
 リンクはその説明にやや不満げだった。
「俺は別にミドナや精霊たちに戦いを強制されたつもりはないよ」
「そうか? 最初のオマエは四六時中、今みたいな膨れっ面だったぞ」
 指摘され、リンクはぷいと横を向く。しかし態度の子どもっぽさに気づいたのか、肩をすくめて表情を和らげた。
「ミドナは俺の、相棒だ。でも全然影から出てこないし、ミドナのことを知る人が誰もいなくてさ……ずっと誰かに話したくて仕方なかったんだよ」
 照れくさそうな言葉の端々から、相棒に寄せる強い想いが伝わってくる。どうやら嬉しさを隠しきれないらしく普段の何倍も弾んだ声で語るものだから、クロスはなんとなく二人の関係を察した。
 クロスはテーブルから身を乗り出し、念を押すように尋ねる。
「とにかく、全部終わったんですね」
「うん」
「私の屋敷はもう乗っ取られる心配はない、と」
「そうだよ」
 リンクは笑いを噛み殺している。クロスは深く腰を折った。
「お二人とも、ありがとうございました。何もお礼などできませんが、ゆっくり休んで行ってください」
「急に改まるなよー」
 なおも彼は照れていたが、
「そうだぞリンク、オマエも休め」
 ミドナは隣の青年の額をぴんと指で弾いた。
 するとどうだろう。いきなり彼の体から力が抜け、がっくり椅子の背もたれに崩れ落ちる。
「えっ」驚くクロスを尻目に、ミドナは意識を失ったリンクを軽々と運んでソファに寝かせた。
「い、今のは?」
「魔法だよ。こいつ、体がボロボロになってるっていうのに興奮してて、全然寝そうになかったからな」
 その証拠に、リンクはソファの上で静かに寝息を立てている。しばらく起こさない方が良さそうだ。
 クロスはテーブルを挟んでミドナと向かい合わせになる。相手が迫力のある美人なので、妙な緊張が込み上げてきた。
「アンタが魔王のことを知ってたのは、あのマリエルって人から聞いたんだろ?」
 ミドナはずばり尋ねた。
「ええ、そうです」このくらいは白状してもいいだろう。
「もしかしてあの人……本名はムジュラっていうんじゃないのか」
 クロスは小首をかしげた。そういえば一番最初にそう名乗っていた気がする。そうそう、そんな呪われそうな名前だった。
 ミドナはろくにマリエルと顔を合わせていないのに、明らかに彼女を知っているそぶりだ。影に宿ったり魔法を使ったりと共通点のある二人だから、何かつながりがあるのかもしれない。
「そうらしいですね。もしかしてミドナさんのお知り合いですか?」
「いや。知り合いというか、心当たりがあるというか……」ミドナの返事は歯切れが悪い。
「今、上で寝てますよ。起こしてきましょうか」
「いいよ。あっちはワタシたちに会いたくないだろうし」
 ミドナは首を振る。マリエルが勇者を忌避していることと、何か関係があるのだろうか。
 彼女はテーブルの上で細い指を組み、切れ長の瞳をわずかに沈ませた。
「クロス……さん。リンクのこと、頼むよ」
 いきなり何を言い出すのだろう。クロスはまじまじと相手を見返した。
「あいつの心には大きな穴が空いている。それを埋められるのは多分、アンタだけなんだ。
 今日の戦いでワタシは一度、ガノンドロフに消されかけた。それを知ったアイツは理性を失いそうになった……らしい。旅の途中でもその兆候はあったしな」
「はあ」
 理性を失う? 確かにリンクは感情豊かだが、そこまで荒れている場面なんて想像もできない。
 ミドナは真剣な瞳でまっすぐクロスを見つめた。
「アンタ、リンクの血縁者なんだろ?」
 クロスは顔を引きつらせる。いつの間にバレたのだ。思わずリンクの寝顔を再確認してしまった。
「何故、そのことを」
「城であのマリエルって人から聞いたんだ」
 ——ハイラル城で金色のオオカミに呼ばれたクロスたちは、肉体ごと別空間に移動するわけではなく、その場で時が止まったように棒立ちになっていたらしい。
 リンクの影に潜んでいたミドナは、無言で佇むマリエルをひたと見据えた。
「アンタたちは何者なんだ」
 険しい声で問う。彼女の胸は疑念でいっぱいになっていた。が、マリエルは涼しい顔で、
「あたしはクロスさんの使い魔よ」
「使い魔? 違うだろ。アンタの力はそんなものじゃ」
 不自然にミドナが言葉を切ったので、マリエルが眉をひそめる。
「何よ」
「まさかアンタが、影の国でマスターソードを?」
「はあ?」
 この様子だと、マリエルはとぼけているわけではないようだ。ミドナは一人で納得する。
(そうか、そうだったのか。ワタシたちは——影の国は、見放されたわけじゃなかったんだな)
 二人の間に沈黙が降りる。次に口を開いたのはマリエルだった。
「あのね、クロスさんはきっと勇者の生き別れのきょうだいよ」
「へ」
「だからシークがあんなに絡んできたのねえ」
 シークとやらが誰なのか、どうして突然そんな話をはじめたのか。ミドナには皆目見当がつかなかったが、どういうわけか「リンクに家族がいた」という点についてはすとんと腑に落ちた。
 リンクが時折見せるあの感情の爆発は、もしや家族がそばにいないからだったのではないか。あの青年は自立しているように見えて、根っこのところではいつも寄りかかる先を探している。
「——そういうわけだから、血縁者のアンタがリンクのそばにいてくれたら、と思ったんだ」
 他人の秘密を何だと思っているのだ、あの悪魔は。どうも、特定の相手には異様に口が軽くなるらしい。人間社会に疎いため情報の重要度というものを理解していないのか。クロスは憤り、テーブルの下でこぶしを握る。
「仮に私がリンクさんの血縁者だとして……そして彼の心に穴とやらが空いていたとしても、あの人は勇者としての使命をこうしてきっちり果たしました。今さら、私が関わる必要がどこにあるのですか」
「勇者でなくなってもリンクの人生は続くだろ」
 すっぱり言い切られる。クロスはとっさに二の句が継げない。
「ワタシは、相棒の未来が豊かであってほしい。アイツの心に欠落があって、それを埋める手段があるなら、手を貸してやりたいんだ」
「欠落というのは具体的には……」
「アイツ、自分でも全然気づいてないけど、家族と別れたのが心のどこかでトラウマになってるんじゃないかな」
 クロスはミドナの言葉をゆっくり噛み砕き、「リンクにはアンタが必要なんだ」という台詞を思い出して我知らず赤面する。
「そ、そんなに言うなら、ミドナさんがそばにいてあげればいいでしょう。私よりよほど関わりが深いですし、なにしろリンクさんの相棒なんですから」
 かろうじて反論すると、ミドナはうつむいた。
「ワタシではダメなんだ……」
 それはあまりに深刻な様子で、クロスはその理由を尋ねられなかった。
 しかし、これから先、魔王と同レベルの危険がリンクの身に降りかかるとはとても思えない。ミドナがわざわざ頭を下げるほどに切羽つまった話なのだろうか?
 クロスは深呼吸して、大荒れ模様の心をなんとか落ち着けようとした。
「まあ、私が血縁者であるかは置いておいて、彼が城下町に来た時くらいは面倒をみますよ。その程度では返しきれない恩がありますから」
「ああ。頼んだよ」
 ミドナはやっと少しだけ表情を和らげた。
 立ち上がった彼女はソファに歩み寄り、眠るリンクのほおをそっとなでる。
「ホントにぐっすり寝てるなあ」
 からかうように笑いつつ、その寝顔へ穏やかなまなざしを向けた。
 リンクの相棒への想いは相当分かりやすいが、ミドナだってあふれんばかりの情を抱えている。気づいていないのはリンクだけだろう。
 甘く漂う空気を読んだクロスは、こっそり席を外した。
「私、姫様の様子を見てきます」
 しばらくして居間に戻ってきた時、二人は寄り添うようにして眠っていた。



「すみません、こんなところまで付き合ってもらって」
 あちこちに包帯を巻いたリンクを連れ出すことの罪深さを感じながら、クロスは町の石畳を踏みしめる。
「いいよ。力仕事なら慣れてるから」
 リンクは左手に持ったバケツを上げ、「いてて」と顔をしかめる。クロスが横に目を向けると、急いで表情を取り繕っていた。
 足元の影は心なしか薄い。その影に宿っていたミドナは今、伏せったゼルダ姫のそばに残っている。
 二人は城下町の外縁に存在する広大な共同墓地を訪れていた。黄昏に沈むハイラル城から帰ってきたリンクたちを屋敷で休ませた、翌日のことだ。
 前夜、結局クロスは一睡もできなかった。ハイラル城からの退却中に短い睡眠を取ったことに加えて、自宅に勇者とその相棒と自国の王女と悪魔がおり、しかも全員無防備に眠っているという異常な状況だったからだ。
 クロスだって体力はほとんど尽きていたが、「もしこんな状態で誰かに襲われたらひとたまりもないのでは?」と余計なことを考えてしまったせいで、ちっとも眠れなかった。結局朝になって全員に朝食を振舞ってからベッドに倒れ込む羽目になった。つまり、今はもう昼だ。
 共同墓地に並ぶ墓石を眺めながらクロスはつぶやく。
「最近はあまり来ていなかったのですが……荒れ果てたままでは世間体に関わるでしょうし」
「出た、世間体」
 リンクが笑いを噛み殺す。そんなに彼の前でこの発言をしただろうか、とクロスは首をかしげた。
 一つの墓標の前にやってくる。そこには「グレン」という名が刻まれていた。
「クロスさんの父親って、出て行ったんじゃなかったのか」
 リンクが素朴な疑問を呈する。
「正確には失踪です。自分の意思で出たのか、そうでないのか、どこかで命を落としたのか——何も分かりません。音沙汰がない状態で何年も経ったので、お墓だけはつくることになりました」
 なので、この墓石の下には何もない。
「そっか……どんな人だったんだ?」
 クロスはリンクの瞳をじっと見上げる。その抜けるような空色は、夢で見た幼子を思わせた。
「さあ。私もよく覚えていません。ラフレルさんの話を聞く限り、無駄に明るくて面倒見のいい人だったみたいですよ」
「へえ」
 クロスはリンクに持ってきてもらった道具であたりを掃除しはじめた。さらに、市場で買ってきた花を供える。
「水くんでくるよ」
 リンクがバケツを待って水場に向かった。
 一息ついて、クロスは墓石を軽くにらむ。
(十年も留守にしていたのに、なんでいきなり出てきたの?)
 本人はいないと分かっていながら、つい語りかけてしまう。
 そんなに娘のことが気になったのか。ゼルダ姫とはどうやって出会ったのか。そもそもこの十年、どこで何をしていたのか。魔王に体を乗っ取られるなんて、一体何があったというのか。シークと骸骨剣士と記憶の中の姿でそれぞれ性格や口調があまりに違っていたが、一体どれが本来の姿なのか。
 それに——幼いリンクをラトアーヌ地方まで連れて行ったのは何故なのか。リンク本人は何も覚えていない様子だし、クロスだってほとんど記憶が曖昧だ。まったく、分からないことばかりだった。
(そのあたりは、姫様が目覚めたら聞かせてくれるのかな)
 シークはマリエルとも取引きをしていたし、そちらから攻めるのもいいかもしれない。
(まあ……ゆっくり考えていけばいいか)
 時間はたっぷりある。クロスとリンクの道は交わり、もはや完全につながったのだから。
「お待たせ」
 戻ってきたリンクが花に水をやる。二人は墓石の前に並び、胸に手を当てて目を閉じた。
 こうして彼を連れてきたのはただの感傷だ。本人に真相を話すつもりがないのに、クロスはずるいことをしている。それでも気持ちに一応の区切りをつけるために——これから先もあの屋敷で生きていくために、この外出は必要だと判断した。
 まぶたを開けたリンクはうーんと伸びをする。
「クロスさんはもう少しゆっくりしたら。俺、先に行ってるよ」
「はい」
 その言葉に甘えて、しばし未練がましく墓を見つめる。それからリンクの背を追いかけようとして——突然強い風が吹いた。少しだけ花のにおいのする、翠の息吹だ。
「わっ」
 不意を突かれたクロスの手から、あっさりと日傘が飛んでいく。彼女は照りつける日差しの中で呆然と立ち尽くした。
 幸い、先を行くリンクはこちらを見ていなかった。
 クロスの足元には影が出ていない。光があれば同時に必ず存在するはずのものが、完全に消滅している。青空の下で、彼女はぽっかり景色から浮いていた。
(は、早く傘を)
 こんなこと、絶対にばれるわけにはいかない。
 日傘は墓地の入口まで飛ばされていた。リンクから隠れるように移動して、しゃがみながら手を伸ばす。
 翠の髪が視界の端に映った。
 入口の門の向こうに、男がいた。髪と同じ色の瞳が印象的な静かな人だ。彼は日傘を拾い上げ、瞬きしながらそっとクロスに差し出す。傘の作る影に彼女の小さな体がすっぽり入る。
「あれ、ノアじゃないか。うわーっ久しぶりだなあ」
 闖入者に気づいたリンクが場違いに明るい声を出す。
 そうして彼女は翠の青年と出会った。

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