第四章 春を告げる者



 あーもうへとへと。でも、これで全部終わったんだ。もうボロボロの足で無理して立たなくていい。ただ自分のベッドに飛び込んで、泥のように眠りこければいいんだ。
 ペネ・ロペは、グラビデを受けたように重たい体を持ち上げた。
 知らない場所だ。まるで水の底にいるようだった。親の漁を手伝って海に潜ったときと、光の入り方が似ている。
 ぼんやりあたりを見回す。仲間たちは揃って倒れ伏していた。彼女は隣にいたユリシーズを揺り起こす。
「……ペネ・ロペか。ここは?」
「わかんない。あたしたち、本当にあの敵——メテオパラサイトを追い詰めたのよね」
 二人とも、寝転がればすぐにでも眠れそうなぐらい疲弊していた。彼女の網膜には、クレーターの底で見た小山のような魔物の姿が焼き付いている。
 呆然と座り込んでいると、他の二人も起き出してきた。
 意識が途切れる直前のことを思い出して、タバサが憤る。
「もー、私がとどめさそうとしてたのに! 誰よ邪魔したのは」
「……」
 ハルトは表情の読めない瞳で宙を見上げた。水底の空間には、ところどころにオブジェのようなものが浮かんでいた。どれも見覚えのあるシルエットだ。
「あれって、ティパの村じゃない?」
「あっちはマグ・メルみたいだな。それと、ティダの村か」
 きょろきょろ見回す。ペネ・ロペは段々状況を理解してきた。
「まさか、ここがクラリスの言ってたクリスタルワールドなの?」
 ハルトはこっくり頷く。彼は前にも一度、ここに来たことがあった。
 四人の前に白い光が降りてきた。
『あなたたちは、ティパの村の——?』
 光は少女の形を取った。どことなくシルエットがクラヴァットに近い。声も娘のようだ。
 四人は疲れていてろくに反応できなかった。
「あなたが思い出の管理人、ミオさんですか」
『ええ、そうよ。ついに来てしまったのね……』
 声色からして、あまり歓迎されていないようだ。
 ミオはキャラバンの顔を順繰りに見る。
『クラリスはどうしたの?』
「あの子はちょっと、病気でね。村にいるわ」
 ペネ・ロペの答えを聞き、ミオは不思議そうに首をかしげる。
『そう……なんだか、クラリスがいる気がしたの。姿は見えないのに。きっと、あなたたちがクラリスの思い出をたくさん持っているからね』
 よくわからない理屈なのに、何故か納得できた。何しろ相手は思い出の管理人だ。
『! いけない、使い魔がっ』
 突然、ミオが切迫した声を出した。いつの間にかキャラバンは魔物に囲まれていた。長いしっぽに、赤い魔方陣を顔に貼り付けた魔物たち。四人は棒のような足に力を入れて、陣形を取る。クリスタルワールドでも武器はしっかり身につけていた。
「やあっ」
 ペネ・ロペが率先してラケットを振り上げた。使い魔と呼ばれた魔物をバシッと叩くが、ほとんど手ごたえがない。
「こいつら強いよ!」
「きゃああっ」
 しっぽを受けて転んだタバサに攻撃が殺到しかけた時、ハルトが割り込んだ。チョコボシールドで防ぐ。
「ありがとっ」
 すぐに置き上がってアルテマランスを振るう。疲労と苦痛に対しては気休めにしかならないけれど、ハルトのケアルが飛んできた。幸い、魔石も持ったままだ。
 ユリシーズとハルトが息を合わせてサンダガを放ち、使い魔は煙となって消えた。
「これで全部かな」
 四人は警戒を解く。ミオは焦っていた。
『ラモエはすぐ近くまで迫っているわ……!』
「望むところよ。どんな化け物かしら、楽しみね」
 タバサは頬を叩いて疲れを吹き飛ばす。開き直らなくてはやっていられない。
 対するミオは不安そうだった。
『本当に……ラモエに挑むのね』
 キャラバンは「何を今さら」という感じだ。そのためにここまでやってきたのだから。
 思い出の管理人はかぶりを振る。
『この世界は、あなたたちの世界とは違うことわりで成り立っている。思い出の数や強さが全てを決めているの。
 だから、戦ってラモエに勝つためには、彼が食べてきた以上に強い思い出を持っていなければならない……』
 思い出の力——去年までは特別意識したことはなかった。しかしハルトは一連の出来事により、それがどれだけ大切なものか、まざまざと思い知っている。
 ユリシーズはクラリスの話を思い出した。
「黒騎士たちは二人でヴェレンジェ山を突破できるくらい強かったけど、思い出の力が足りなかったんだよな」
『そう。前を見つめ過ぎたせいで、思い出をほとんどつくってこなかったの。それは……ラモエに勝てる勝てない以前に、とても悲しいことよ。
 だけど、あなたたちには彼らとは違う、何かを感じるの』
 ミオは意を決して、ハルトの方を向いた。
『もしかしたら、あなたなら思い出の力を引き出せるかも知れない』
 彼女は天に向かって手を差し伸べる。すると、目の前にツタが絡みついた木の扉が現れた。
『これは思い出の扉。この中で思い出の鍵を見つけて戻ってくることができれば、より思い出の力は強くなる。
 そして……この先で、あなたのことを待っている人がいるわ』
 ハルトは大きく目を見開いた。待ち人といえば、彼しかいない。
 扉がゆっくりと開いて、眩しい光をこぼした。彼は少し心許ない顔で、仲間たちを見返す。
「行くのね」
 ペネ・ロペはふっと表情を緩めた。後輩を安心させるように。
「大丈夫。誰よりも思い出を大事にするお前なら、絶対帰ってこられるさ」ユリシーズは胸を張り、
「……待っててあげるわよ、いつまでも」タバサは優しく言った。
 ミオはそっとハルトの背中を押した。
『気をつけて。記憶に囚われては戻れなくなってしまうわ。自分の思い出に負けないでね。あなたには、家族や仲間がついている』
 心から彼を気遣っている声だった。
 ハルトは頷き、扉の中へ一歩踏み出した。



 懐かしい風を感じて、ハルトはまぶたを開けた。
「……」
 潮の香りが立ち、葉擦れの音が聞こえる。眩しい日差しに照らされたそこは——ティパの村の岬だった。
「ハルト、どうしたんだよ、ぼうっとしちゃって」
 目の前にカム・ラがいた。隣にはアリシアも。ただし、二人とも現在より遙かに幼い風貌をしている。
「?」
 自分の手のひらを確認した。ぷくぷくしていて妙に小さい。キャラバンの旅でつくったはずの傷跡は、まっさらになっていた。
「ま・せ・き! ハルトが転がしてくれないと、つまんないよ〜」
 アリシアが屈託なく笑う。彼女のそんな顔を見るのは久々だった。
 足下には、ダンジョンで拾うものとは全く違う、びっくりするほど粗雑な魔石があった。
 なるほど。彼は「あの日」を迎えているのだ。何度も何度も、すり切れるほど思い出した運命の日を、もう一度反復しているのだ。
 それなら、あの人に会える……?
 ハルトは我慢できずに背後を振り返った。近くの木陰で、「あの人」は慣れない読書をしていたはず。
 ——いた。記憶の底にしまい込んでいたその姿を見て、泣きそうになった。しかし涙より先にこみ上げてきたのは、微笑みだった。
「ハルト……?」無垢そのものの表情で首をかしげるカム・ラも、平穏な未来を信じて疑わないアリシアも。置き去りにした記憶の中で、みんな確かに生きていた。誰も彼もが愛おしくてしょうが無い。
 ハルトはぎこちなく腕を上げて、「あの人」を指差す。
「あ、人がいるね」アリシアが気づく。
「魔石が転がったら危ないし、ちょっとどいてもらおうか」
 歩いて行こうとした二人を引き止め、ハルトは自ら彼に近づく。
 難しい文章に眉をひそめているその人。ずっと探してきたその名前は、今になってあっさりと出てきた。
 ——ガーディさん。
 その人は、柔らかそうな金髪を揺らして顔を上げた。
「やあ。キミは、ハルトくんだったかな」
 ……思い出した。全部、思い出したのだ。
 当時キャラバンに入っていたハーディの、双子の弟。記憶を失った伝道師が作り出した二重人格ではない、本物のガーディだ。それこそが、ハルトが十一年間追い求めていた真実だった。
 ガーディは無言でこちらを見つめる。表情はみるみるうちに、怒りを含んだものになった。
「ボクがどんな気持ちでいたか、分かるかい」
「……っ」
 ぐっと胸ぐらを掴まれる。ハルトのつま先が宙に浮いた。首元に加わる力は強い。
「よくものこのこやって来られたね。頭を下げれば許してもらえるとでも思ったの? キミのせいでボクは死んだ。その上、家族にまで忘れ去られてしまったんだよ。……絶対に許せない。どうしてキミじゃなくてボクだったんだって、何度思ったことか」
 気づけばカム・ラたちはいなくなっていた。あの日の岬だけが記憶から切り取られて、虚しく波音を響かせていた。
 ガーディは薄く笑う。その拍子に、ぎゅうっと喉がしめられた。「っ……!」少年にはもがく気力すら無い。
 あの日命を落としたガーディは、自身に関する一切の記憶を魔に喰われた。しかし、どういうわけかその意識だけがクリスタルワールドに残った。
 やがて——兄のハーディと黒騎士がやってくる。二人はラモエに負けて記憶を失い、それぞれダーククリスタルの欠片を持ってこちらの世界に戻ってきた。あの結晶がラモエが現世と繋がるための入り口、さらにはガーディの媒体となっていたのだ。
 クラリスの言うとおり、端から見れば完全な逆恨みなのだろう。全ての元凶はラモエなのだから。でも、ハルトは彼を責められなかった。同じ立場になった時絶対に彼を恨まない、と断言することが出来なかったから。
 体の力が抜けた。だらりと手が垂れる。すぐそこは崖だった。もう一度海に落ちたら——今度こそ助からないだろう。
 それでもいいのだろうか。ガーディの思い出を慰める為に、自らを投げ出しても?
 脳裏にクラリスの言葉が蘇る。
「お前には伝えるべき言葉がある。剣でも拳でもいい。とにかく伝えたいことを直接、彼にぶつけるんだ。悲しい考えに囚われているあの人を、どうか救ってやってくれ」
 腕がピクリと動く。持ち上がる。腰につけたポーチから、彼はあるものを取り出した。
「それは!?」
 ガーディは驚き、手を離した。ハルトは地面に投げ出された。その横に、ひとつのりんごが転がる。赤と黄色の縞模様。
 それはハーディが、アリシアが、たくさんの人々がハルトに託したりんごだった。
「しましまりんご——兄さんの大好物だったな」
 ガーディの虚ろな瞳に、わずかな光が宿った。
「ボクは、兄さんみたいになりたかった。堂々と瘴気を晴らすだなんて言って、みんなには笑われてたけど……ボクは、そんな兄さんが大好きだった」
 つややかな果実を映したガーディの両目から、紫色が薄れていく。
 ハルトはりんごを拾い上げ、彼の手に握らせた。
(お前には、伝えるべき言葉がある)そこに、クラリスの手も添えられている気がした。
 すう、と息を吸う。少年の唇は自然に動いた。
「昔、ハーディさんにこうやってりんごをもらいました」
 それは他でもない、ハルト自身の声だった。
 少し低くて聞きやすい声。こんな声をしていたのか、と自分でも少し驚く。
 俯いたまま瞠目したガーディへ向けて、ハルトはたどたどしく言葉をつなげていく。
「その頃ぼくは、外の世界に憧れていました。海に落ちてから、一度は諦めてしまったけれど……ハーディさんのりんごは、いつもぼくを励ましてくれました」
 ——いつかキミがキャラバンに入ったら、このりんごを持って行くといいよ。そうしたら味と香りで、いつでも故郷を思い出せるだろう?
 ハルトの瞳は夜空のように澄み切っていた。
「ぼくにとって、ガーディさんは命の恩人です。あなたがいたからここまで来ることが出来ました。ハーディさんだけじゃなくて……あなたも、導いてくれたんです」
 少年は目を伏せる。あふれる思いが胸を高鳴らせていた。
「ずっと、あなたに伝えたいことがありました。少し前まで、その言葉は『ごめんなさい』だった……。でも本当に言いたかったことは、違いました」
 一呼吸置く。
「……ありがとう」
 十一年前の幼い容貌に、ハルトは春の日差しのような笑顔を浮かべた。
 やっと伝えられた。途方もない喜びが胸の裡で弾けていた。
「キミはどうして、そこまで人のことを信じられるんだい」
 ガーディはりんごを握りしめ、無表情で訊ねた。ハルトは何でも無いことのように答える。
「誰もが思い出を大切にできる世界。種族の隔たりなく、みんながお互いに信じ合える世界。ぼくは、そんな場所で生きていきたいから」
 ガーディは苦笑した。笑うしかなかった。
「ハッ、ご大層な。でも……それは兄さんが目指したものと、一緒かもしれない」
 そうして青い空に視線を投げる。
「ラモエはあまりにも大きすぎて、ボクには太刀打ちできなかった。キミの方が憎しみをぶつけやすかったんだ。いくら嘘つきだからって、自分の気持ちにまで嘘をつかなくても良かったのにね。ボクとしたことが、低きに流れていたらしい……」
 だが、その気持ちはハルトにも十分理解できた。
「ハーディさんは、あなたのことを忘れたわけじゃありません。だって——詐欺師のガーディといえば、キャラバンなら誰でも知ってます」
「世界を股にかける詐欺師かあ。いいね。くそまじめな兄さんも、案外ボクに憧れてたのかな?」
 ガーディは片目をつむり、りんごを返した。しましまの黄色い部分はハーディで、赤い部分はガーディのようだ、とハルトは思う。
「ボクと兄さんの分の思い出。頼んだよ」
「はい」
 微笑むガーディが、だんだん白い光に包まれていく。声をかける間もない。瞬きすると、彼は日差しに溶けてしまった。
 ハルトはぎゅっと目を閉じる。大丈夫、消えていない。ガーディの記憶はしっかり胸に刻みつけている。
 ふと、手元を見る。受け取ったりんごが光っていた。もしかして、これが思い出の鍵なのだろうか。日にかざしてみると、目の前に見覚えのある扉が出現した。
 間違いない。ハルトはひとつ頷き、扉をくぐろうとした。
「ハルト!」
 誰かに呼ばれて足を止める。振り向く前から心臓がどきどきしていた。この声は、まさか。
「こんなところで何してるのよ」
 ……姉さん。
 小さなクラリスはあどけなく笑っていた。この雰囲気、このしゃべり方——当時は、少し気が強いだけの、普通の子供だったのだ。自慢の茶髪もまだ肩の長さだ。頭はハルトよりもずっと高い位置にある。四つの年の差は、十一年前は絶対的な身長差を生み出していた。
「さっきまでカム・ラたちと魔石遊びしてたんでしょ? 木の上から見えたよ。でも、みんなどこ行っちゃったの」
 ずかずか近寄る姉に、その分だけ後ずさる弟。
「ね、姉さん——」
「姉さん、だって。いつもみたいに『お姉ちゃん』じゃないの」
 ぎくり。ハルトは顔をひきつらせ、出来るだけ幼い口調をつくる。
「あ、あのね。ぼく、もう行かないと」
「一体どこへ?」
 怪訝そうに首をかしげるクラリスは、心に何かきらきらしたものを持っているようだった。過ぎ去る日々に置いてきてしまった、どうやっても取り戻せないもの。あの事故さえなければ、欠片は残っていたかも知れないものを。
 ハルトは頭を振った。過去は変えられない。だからこそ人は思い出を必要とする。
「やらなきゃいけないことがあるんだ。でも——必ず『ここ』に帰ってくるから」
 正面の彼女ではなく、ティパの村で病床に伏せるクラリスに届けるつもりで、言い切った。
 ハルトは思い出の扉に手をかけた。最後にもう一度だけ振り返り、頬をほんのりバラ色に染める。
「それとね……ぼく、喋れるようになったよ」
 ぽかんとするクラリスもろとも、ティパの岬は光に飲まれ、ハルトの思い出の中へ還っていった。



 その日。「彼」はらしくもなく本を読んでいた。
 彼の双子の兄は立派な人で、キャラバンとして活躍していた。弟と違って博識で魔法への造詣も深く、誰からも尊敬される人物である。おまけに村長の息子といえば、注目を集めないわけがない。
 比べて平凡な能力しか持たなかった弟は、ひねくれた性格にできあがってしまった。
 そんな彼が、今日は珍しく気まぐれを起こして、兄の本を借りてみた。……のだが、さっぱり内容が頭に入らない。文字を追ううちに、ある考えが頭の中をぐるぐる回り始める。
 兄は憧れだった。あんな風に誰かを助けられる人物になりたい。嘘をついて煙に巻くのではなく、誰かを導くような存在になりたい——。
 だから、岬近くの木陰に陣取っていた彼は、遊んでいた子供の一人が崖から宙に放り出されたとき、真っ先に飛び出して手を差し伸べたのだ。
 海に呑み込まれる瞬間まで、彼は決してその行動を後悔しなかった。



 思い出の扉の試練を終え、ハルトは水底の空間へ戻ってきた。
 扉を出てよろめく体を、三方から伸びてきた手が支える。
「おかえり、ハルトくん」ペネ・ロペが。
「扉の向こうはどうだった?」ユリシーズが。
「遅すぎ。あっちの世界が気に入っちゃったわけ?」タバサが、あたたかく出迎える。
 ハルトははにかんだ。
「ただいま、みんな」
 三人は一様に目を丸くする。今の言葉は、明らかに少年が発したものだ。
「ハルトくん、声っ」
「戻ったんだな!」
 大はしゃぎの先輩たちに対し、ハルトは照れくさそうに髪の毛を掻いた。
「そうみたいです。今までご迷惑をおかけしました」
 ぺこりと頭を下げる。その脇腹を、タバサがどしんと肘打ちした。
「いて」
 何事かと思ってリルティの少女を見ると、
「ば、ばかっ」
 じわり、タバサの目尻に涙がにじむ。
「散々迷惑かけといて……何、しれっと復活してんのよ!」
「ありがと、タバサ」
 ハルトは微笑む。「心配させてごめんね」
「別に、心配なんてしてないわよっ」
 憎まれ口に反して、相当後輩に目をかけていた彼女だ。嬉しくてたまらないのだろう。
 ペネ・ロペとユリシーズだってそうだ。ハルトの声を聞いた瞬間、沸き立つような喜びを覚えた。
「これでようやく、ティパキャラバン最強の布陣が完成したってわけね!」
 ペネ・ロペがびしっとラケットを宙へ突きつけて、宣言する。
 四人を見守っていたミオは、わずかに首をひねった。真っ白に発光した髪がなびく。
『ハルト。あなたはどうして前に進めるの』
「え……」
 返答に窮する彼に、思い出の管理人が語り始めた。
『思い出というものはね、未来という目的地へ旅するための手荷物なの。荷物が重すぎれば、目的地へ向かって動くことが辛く感じてしまうし、軽すぎれば、目的地にはすぐにたどり着くけど、中身のない旅で終わってしまう。
 でも、あなたはたくさんの思い出を抱えて、ここまで辿りついた。そのどれもが輝いていて、眩しいくらい。一体、何があなたを動かしているの?』
 少し考えて、ハルトは唇を動かす。
「前に、ガーディさんに言われたんだ。全部忘れてしまった方が、いっそ楽なんじゃないかって。正直、そうかもしれないと思った。確かにぼくの荷物は重かった。一度潰されそうになったくらいに。
 でも今は——違う。思い出は、ぼくがぼくであるためのものだから。失われていいものなんて、一つもないよ」
 ミオはそっと息を吐いた。
『……そう。こんな風に思い出と向き合っている人がいるなんて、考えもしなかった。
 昔、クラリスはあなたが夢を叶えてくれると言っていたわ。私もまた夢を見たい。あなたを信じてみたい』
 ミオは決然としたまなざしを中空に向けた。
 クリスタルワールドに満ちていた親密な空気が、がらりと変わった。キャラバンは身構える。水底のような空間は変容し、天からオレンジ色の光が降り注いだ。禍々しい気配がする。
『ラモエが来るわ。みんな、少しの間息をひそめていてね』
 ミオが手をかざすと、四人を包むように結界が張られた。
 間髪入れず、闇の中から黄金色の魔物が現れる。
(あれが、ラモエ——!)
 キャラバンは身震いする。ラモエは、ミオとは似ても似つかぬ、四つの頭と翼を持つ怪物だった。あれほど大きく成長したのは、人々の思い出を喰らって力をつけた結果だろう。
『ミオ様。こちらに誰か、来ませんでしたかな』
 声が空気をびりびり震わせる。結界越しにラモエと目が合い、ハルトはごくりと唾を飲み込んだ。
 怪物に比べて、ミオはなんとも弱々しく見えた。それでも彼女は平静を保ち、キャラバンをかばおうとする。
『いいえ、何も見ていないわ。レオンとハーディがやってきて以来、誰も……』
『そうですかな。たしかにキャラバンどもを引きずり込んだはずですが。おかしいですな』
 ラモエはあたりを見回す。
(うひゃあっ)思わずペネ・ロペは首を引っ込めた。
『困りましたな。ティダの村を越える思い出を、味わえるはずでしたのに』
 リーダーは真っ青になった。脳裏に浮かぶのはル・ティパとセシルの末路だ。こいつがティダの村を……。
 結界に身を潜める四人の上を、ラモエの視線が何度も何度も往復する。
『ミオ様。何か隠しているでしょう』
『い、いいえ』ミオは白い頭を左右に振った。
『ミオ様!』
 ラモエが一喝する。これ以上は無理だと悟ったハルトは、結界から飛び出した。
『ハルトっ』ミオが驚き、「ハルトくん!」ペネ・ロペたちも後に続く。
 ラモエは四つの顔に嫌な笑みを浮かべ、
『やはり、キャラバンがひそんでいたのですな』
 その凶悪な腕を伸ばした。
『だ、だめっラモエ!』ミオがハルトをかばうようにラモエの前に出た。怪物の手が一閃し、少女は地面に叩きつけられる。
「ミオ!」
『さて、キャラバンの思い出は一体どんな味がするのでしょうな……』
 ラモエに周囲に青い煙が立ち、何体もの使い魔が現れる。ハルトはぐったりしたミオを抱えて怪物を睨みつけた。
 二人を守るように仲間たちが展開した。
「いくよみんなっ。作戦はさっきと同じ、絶対生きて帰ること!」
 タバサは無言の気合で応じ、ペネ・ロペとユリシーズは、すぐさま得意の合体攻撃に移る。
「せーのっ」「ファイア剣!」
 ペネ・ロペのラケットが炎をまとい、使い魔をぶちのめす。
 さらに大きく踏み込んだタバサが、アルテマランスを打ち振るった。使い魔の顔に貼り付いた魔方陣が力を失った。
『むう……!』
 ラモエがうめく。四人揃った途端に、キャラバンの思い出が輝きを増していく。眩しすぎて、まともに目を合わせられないほどに。
 ミオはハルトの腕から抜け出して、ラモエの前に進み出る。
『聞いて、ラモエ。瘴気は私たちに必要なものではない。悲しい思い出を食べなくても、瘴気がなくなっても、あなたは消えたりしないわ!』
 ラモエは幼子のように頭を振った。
『我は、消えたくない……っ! ミオ様、どうかこのラモエを見捨てないで欲しい』
 諸悪の根源にまるでふさわしくない、胸が痛むような哀願だった。
 キャラバンを振り返るミオ。ハルトはその真っ白なおもてに、微笑みが浮かぶのを見た。
「ミオ……!」
 伸ばした手は、届かなかった。彼女は見えない力に捕らえられ、ラモエの目の前に引きずり出される。
 黄金の魔物は余裕のない叫びを上げた。
『我は決して消えぬ。ミオ様の体を借りてでも!』
「あっ——!?」
 二つの影が重なった。その瞬間を、キャラバンははっきりと捉えることが出来なかった。
 四人が立っていた地面がいきなり割れた。その下から間欠泉のように風が吹き出す。キャラバンは遙か上空に巻き上げられた。
「きゃあ〜っ」「なんなんだよ、一体!」
 宙に浮かびながら、それぞれ手を繋ぎ合う。ペネ・ロペがユリシーズと、ユリシーズがタバサと、タバサがハルトと、そしてハルトがペネ・ロペと。輪になったキャラバンは新たな空間へ飛んでいった。
 ……気がつけば、雲の上にいた。といっても足場は透明な板のようだ。雲の切れ間から、どこまでも広がる緑の草原がちらちら覗く。
「今度は何だろうね」
 ペネ・ロペは油断せず、仲間たちに戦闘体制を整えるよう指示した。あれで終わりとは思えなかったのだ。
「ミオ……無事だといいけど」
 タバサは呟いてから、うつむくハルトを見やる。短い間だったが、ミオと彼の間には不思議な心のつながりがあった。
 前方からはものすごい勢いで雲が発生していた。あそこに何かがある。最後の力を振り絞り、四人は歩を進める。
 上空に黄金色の光が差した。ラモエを思わせる色だ。
「来るわよ」
 ペネ・ロペの言葉通り、おもむろに「ラモエだったもの」が降臨した。
『我は消えぬ……永遠に!』
 中心には緑の宝玉、両腕には盾のような器官。ミオを取りこんだため白く染まった体は、神々しさすら感じさせた。さしずめ、ミオラモエとでも呼ぶべき巨悪の登場だ。
 ミオラモエは呆然としているキャラバン達へ、長い尾の先から氷のビームを発射する。
「みんな、散って!」
 悲鳴混じりの号令を発し、ペネ・ロペは先陣を切ってミオラモエへ飛びかかった。ケージの聖域から解放された彼らは、いつもより自由に動けるのだ。
 しかし、ミオラモエ本体は遙か上空に浮かんでいて、尾のような部分にしかラケットが届かない。何とかして引きずり落とさねば。
 ヒートビームや叩きつけ。ひっきりなしに襲い来る攻撃をかわし、ひたすら戦い続けるうちに、ペネ・ロペの脳裏に家族の顔が浮かんできた。弟や妹、父母がこちらへ手を振っている……。
「何これ?」
 郷愁がこみ上げて、胸が苦しくなる。ミオラモエが邪悪な笑みを浮かべた気配がした。
 ぞっとした。思い出が、吸い取られている!?
「い、いやあっ」
 抵抗しようにも、その方法が分からない。パニックに陥りかけた彼女の元へ、ぱっと緑の光が降り注いだ。
「ペネ・ロペさん!」
 ハルトのケアルだ。不思議なことに、その光を浴びた途端、思い出の流出は止まったようだ。
「あ、ありがとう」
 後輩は微笑み、「後ろは任せて」と頼もしく請け負った。彼は何度もキャラバンのピンチを救ってきた永久魔石のリングを閃かせ、連続で魔法をかける。
『おのれ……』
 ミオラモエが唸る。おぞましい視線を感じたハルトは、ビーム攻撃を予期してすぐにその場を移動した。
「ハルト、逃げてーっ!」
 タバサが叫ぶ。それこそがミオラモエのワナだったのだ。
 ハルトのまわりに影が差す。コールドビームを避けた先は、敵のふところだった。すかさず、すさまじい質量を持った腕が振り下ろされた。
(しまったっ)
 彼は目をつむる。無意識にポーチへ手を突っ込みながら。
 全身がバラバラになるような衝撃が襲った。ハルトの体は鞠のようにはね飛ばされた。
 だが。
「——あれ?」
 おそるおそるまぶたを開ける。痛くない。あんなものに直撃したら、意識が飛んでもおかしくないのに。フェニックスの尾も消費していないようだ。
 いつの間にか、彼は手に何かを握っていた。見たこともない種類の魔石だ。
 タバサが駆け寄ってくる。
「大丈夫、ハルト」
「う、うん……」
 試しに魔石に力を込めてみた。ほとんどノータイムで発動したのはケアルガだ。青い光がキャラバンに降り注ぐ。ユリシーズの負った火傷も元通りだ。
「おお、助かる!」
 手の中の魔石は、一度使っただけで忽然と消えてしまった。その瞬間、彼の脳裏にある人の気配が甦る。
「ガーディさん?」
 嘘ばかりついていた、優しい彼の姿が思い浮かんだ。同時に理解する。この魔石は、彼の記憶そのものなのだと。
「もしかしたら——」
 ハルトがもう一度ポーチを探ると、そこにはりんごではなく、たくさんの魔石があふれていた。
 間違いない。今まで少年が関わってきた——ティダ村の二人、黒騎士、メ・ガジも含めた——数え切れない人々。彼らの思い出が、クリスタルワールドでは何よりも強い助けとなっている。
 ハルトは、戦闘中だというのに嬉しくなってしまった。
「ペネ・ロペさん、みんな!」
 リーダーは後輩から放られた魔石を受け取る。
「使ってくださいっ」
 何の説明もなかったけれど、ペネ・ロペはすぐさま従った。短い集中と共に開放された魔力が、透明な膜となって体を包む。バリアが張られたようだ。
「あっ……セシルさん?」
 女好きだった老人の顔が鮮明に思い浮かぶ。間違いなく、彼が手助けしてくれた。
「なるほど、思い出が魔石になるんだな!」
 ユリシーズはすぐに脳内でクロニクルのページをめくった。
「デ・ナム、力を貸してくれ」
 高く差し上げた右手に魔力が集まる。雲の上だというのに、あたりに暗雲が立ちこめ、空気が帯電した。
 直後、どおんと雷鳴が轟いた。ミオラモエは特大の雷に貫かれた。
「これが魔法の本来の力か……!」
 ユリシーズは震えた。雷雲を呼ぶなんて、通常のサンダガでは絶対にありえない。机上の空論ではなく、実際に自然現象に干渉できたのだ。
 勝てる。押し切れる。彼らは確信した。
 勢いづいたキャラバンの猛攻に耐えきれず、尾が壊れてミオラモエの本体が落ちてくる。
「今だーっ」ペネ・ロペが叫んだ。
 総攻撃をしかけるため、ハルトもラグナロク片手に走った。雲の上にまっすぐ伸びた、未来へ向かう道の上を。
 ミオラモエはなおも光線で抵抗を続けるが、ユリシーズが巧妙におとりを演じて回避する。もはや、思い出を味方につけたティパキャラバンの敵ではなかった。
「これで終わりだあ——!」
 ペネ・ロペはラケットから奥義メテオシュートを放った。魔法で出来た小さな隕石が、ミオラモエの体を打ち砕く。
『ワタシハ……キエタク、ナイ……』
 永久に近い時を生きてきた巨悪が今、死に瀕していた。
 ハルトはゆっくりとラモエに歩み寄り、言った。
「ラモエ。ぼくたちは、目に見えなくなっても死ぬわけじゃないんだよ。きみの思い出を誰かが心に残し続ける限り……ずっと。きみは消えたりしない」
 その発言に、ラモエは何を感じたのだろう。それは永遠に分からない。
 天に昇りながら、ミオラモエの体が崩れていく。四人はその光景を虚脱したように眺めた。消えたくない——ラモエの最後の言葉が耳に残る。なんとも寂しい幕引きだった。
 やがて、空から白い光が落ちてきた。
「ミオ!」ハルトは走り出した。
 彼女を抱き留め、そっと地面に下ろしてあげる。疲れ果てた三人ものろのろ追いかけてきた。
『ありがとう、クリスタルを継ぐ者たち。これで世界の流れが元に戻るわ……』
 ミオはぐったりしていた。キャラバンは、ラモエと融合した彼女とも戦っていたのだ。救うすべがなかったとは言え、やるせない気分になる。
「きみはどうなるの?」
 ハルトが心配そうに訊ねる。
『大丈夫。あなたたちが思い出を紡ぎ続けるなら、いつかきっと、私もラモエもまた生まれてくることが出来る』
 それこそがミルラの旅の本来の姿。世界のことわりは「循環」だった。
 ミオは薄く微笑んだようだ。
『ラモエも……そして私も、あなたたちに嫉妬していたのかもね。私たちは自分で思い出を紡ぐことはできない。だからたくさんの思い出に接するうちに、人に憧れてしまった』
 そうか、とユリシーズは低く呟いた。
 クリスタルワールドでは、思い出の力が全てを決定する。ラモエは大量に思い出を喰らった分強く大きく育ち、ミオは少ししか思い出をもらわなかったため、ぼんやりした姿をしているのだろう。
『はじめはラモエも小さな存在だった。彼がほんの赤ちゃんだったころ、隕石と一緒にメテオパラサイトがやってきて、世界がめちゃくちゃになってしまったわ。あの頃人々が生み出す記憶は、ひどいものばかりだった……。それで、ラモエは本来食べなくてもいい、辛く悲しい記憶を食べてしまった。赤ちゃんには栄養が必要だと思って、私も許してしまったの。
 不必要に大きくなった彼は、悲しい思い出とそれを生み出す瘴気は、どうしても自分に必要なものだと思い込んでいたのよ』
 不幸な因果が絡まり合って、世界の流れが途切れた。そのまま二千年が経過した。
 四人はラモエが憎くて討ったわけではない。ただ、無作為に記憶が奪われることに耐えられなかっただけだ。ラモエに同情するつもりはないけれど、哀しい怪物だと思った。
 ミオは優しくハルトの手に触れた。
『ハルト。私が言った、思い出は旅の手荷物だっていう話、覚えてるかしら』
「うん」
『あなたの思い出は、すこしだけ重すぎるように見えるわ。ちょうどいい重さの手荷物なら、もっと旅を楽しむことが出来る。休み休み、周りを見渡しながら。そういう旅は、旅人の心を育て……その心は新たなミルラとなって、次の旅人へ引き継がれていく。
 思い出と、もっと自然体で付きあってあげてね。確かで穏やかな未来へと進むために』
 ミオの視線は慈しみに満ちていた。
「そうしてみる」
 ハルトは生真面目に答えた。
『あなたならきっとできるわ。それと……ときどきは、私のことも思い出してね』
 ミオを包んでいた光が弱くなっていく。ハルトの肩から力が抜けた。
 儚い少女がいた場所に、真っ青なクリスタルが現れた。ちょうど両腕で抱えられる大きさだ。
「きれい……」誰かが呟いた。
 海のような水晶の表面に、ハルトが指を伸ばした。
 触れたその瞬間から、潮が満ちるようにあたりが光で埋まっていく。
『ありがとう、クリスタルを継ぐ者たち……』
 耳の奥でミオの優しい声がこだました。
 気づけば、キャラバンは懐かしいヴェレンジェ山へと舞い戻っていた。クレーターの最奥、瘴気に満ちた真っ暗な空間だ。
 目の前には瀕死のメテオパラサイトのコアが横たわる。あと一撃で、全てが終わる。
 ペネ・ロペは仲間たちを振り返った。
「……とどめは誰がする?」
「せーの、で指をさしましょ」
「せーの」
 三方から指を向けられて、ハルトはきょとんとした。
「ぼく?」
 心底不思議そうだった。ペネ・ロペはからりと笑った。
「そうよ。今回はキミが、一番がんばってくれたもの」
「みんな、お前を認めてるんだぞ」
「本当はアルテマランスの錆にしてあげたいところだけどね。後輩のあんたに譲るわ」
 ハルトは困った顔をしながら、ラグナロクを構えた。徐々に目元が引き締まっていく。
 暗黒剣——下手をすれば命が削られかねない大技だ。でも、今の彼には支えてくれる仲間がいる。
「……行きます!」
 静かな気合いとともに、魔剣が美しい軌跡を描いた。ただの一太刀で、メテオパラサイトのコアは切り落とされる。
 メテオパラサイトの巨体は上端から塵になっていった。ゴゴゴ……という轟音とともに、すさまじい振動が発生する。今まで大地から吸い上げていたエネルギーは、一筋の光となって天を貫いた。
 光の到達した場所から、ヴェレンジェ山を覆った雲が晴れていく。
「見て!」
 ペネ・ロペが指をさした。雲だけではない。世界をあまねく覆っていた白いもや——瘴気までもが、刷毛で払ったように消えていった。
 四人は思う存分その光景を眺めていたかった。しかし、メテオパラサイトが滅びた時の衝撃で、クレーターの壁が崩れ始めた。四人は必死に穴の底から這い出す。
 いつしか彼らは、どこまでも青い空の下に立っていた。
 あたりは冗談のように明るくなっている。山道に降り注ぐのは、本物の太陽の光。そこでやっと、四人はお互いに泥と埃まみれであることに気が付いた。
「……」
 何か話したいけれど、ふさわしい言葉が見つからない。
「は、は。あははっ」
 耐えかねたように、ペネ・ロペはお腹を抱えて笑った。「ふっ」釣られてユリシーズが含み笑いをし、「あっはっはは」タバサまでもが大きく口を開けた。
 突然爆笑の渦に巻き込まれた仲間たちを見て、
「み、みんな、どうしたの」
 ハルトだけがおろおろしていたが、最終的には彼も釣られて、
「……ふふ」ちょっとだけ笑ってしまった。
 小刻みに肩を揺らしながら、彼はポーチを探る。もう魔石はなかった。だがあの思い出たちは、心の引き出しにちゃんとしまい込んでいる。
 じきに四人は笑うことにも飽きて、明るくなった登山道をゆっくり上るだろう。
 大好きな家に帰るために。

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