第四章 同じ空のもとで



 塔のような岩が海面から突き出ている。どうやらこれがトンガリ岩のようだ。その付近でビンから解放されたタツノオトシゴは、リンクに向かって小さな頭を下げた。
「フシギな力をもっているアナタにお願いがあります。このトンガリ岩の竪穴には、それはもう恐ろしい海ヘビがたくさんいて……ワタシのトモダチがつかまっているのです。どうか、海ヘビたちを倒してワタシのトモダチを助けてください。お願いします」
 丁寧にお願いされる。タマゴがある場所と目的地が同じなので、そのくらいは問題ない。
「ありがとうございます。ワタシのあとを間違えないようについてきてください。トンガリ岩の外に出ようとすると海流に押し戻されて、知らないうちに元の場所に戻っていたりするので気をつけてください」
 あたりには霧が出ていた。これが海賊たちを惑わした原因だろう。リンクはタツノオトシゴの案内に従い、霧の中に突入する。
 海ヘビの巣は大きな竪穴になっていて、そこから横穴がいくつも空いていた。ひとつひとつに長い体の海ヘビが住んでいるようだ。なかなかぞっとする光景だった。
『ディープパイソンよ。そのヒレなら攻撃が通るんじゃない?』
 ゾーラのヒレの鋭さは刃物にも匹敵するだろう。よし、とリンクは海ヘビに向かっていった。
 まずは海ヘビの顔の前を横切って、穴から誘い出す。海ヘビが飛び出した拍子に水が動いて泳ぎがぶれそうになるが、なんとかこらえて相手の脇に肉薄した。
 水の流れに合わせてヒレを繰り出す。図体の大きさの割に、守りはそこまでかたくない。裂けた腹を抱えたヘビは、苦悶の声を上げて巣の奥に引っ込んだ。
『なあんだ、大したことないわね』
 その隙に巣の中を探索する。幸先よくタマゴを見つけてビンに入れた。ゾーラ姿における戦いの要領を得たリンクは次々と海ヘビを倒していった。
 残りのタマゴを回収し、一番最後に竪穴の底にあった巣でタツノオトシゴの片割れを見つける。
 こちらもリンクが連れてきた魚と同じく金色で、二人は互いを認識した途端仲よさげに体を絡め合う。
『友だちって言ってたのに……どうも違ったみたいね』
 チャットは苦笑いしていた。遅れて、「恋人か何かだったのか」とリンクも気づく。
 海ヘビが戻ってくる前にここを出ろとだけ言い残し、海面に上がった。
 久々に空気を浴びたチャットは明るく言い放つ。
『さあ、ゼロたちのところに帰りましょ』
(……帰る?)
 違和感のある言葉だった。ただ場所を移動するだけなのに、どうして帰るなどと言うのだろう。
 疑問を抱きながらトンガリ岩を後にした。海洋研究所を目印にして浜辺にたどり着く。水から上がると体の重さを感じた。
 ゼロたちが向こうからぱたぱた駆けてくるのが見えた。
「おかえりリンク、チャット!」『おかえりなさい。お怪我などありませんか』
 リンクは返事ができなかった。呼吸音だけが頭に響く。チャットがふわふわ浮かんで前に出た。
『たっだいまー。大変だったのよ、海ヘビがわんさかいてねー』
 おしゃべりしたがる妖精を遮り、「海賊はどうした」とゼロに問う。
「海岸の端で会ったよ。タマゴは無事に全部そろいそうだって言っておいた。あと、なんかこれもくれたけど」
 ゼロは金色をしたアイテムを取り出す。長い鎖の先に槍の先端部のような尖った部分がついていて、手元で操作し鎖を伸ばして遠くのものに突き刺すことができる。ものを引き寄せる、反対に使用者が突き刺したものの近くに移動するなど、利用価値の高いアイテムだ。
「フックショットか」
「漁師の人から盗んだものらしいけど、もしかすると海賊たちも扱いに困ってたのかも。持ち主に返しに行ったほうがいいかな」
「もらっておけ。使い所があるはずだ」
 リンクはひとつうなずくと、「早くタマゴを届けるぞ」と促した。
「あ、やっぱりタマゴを全部取り返したんだ。さすがリンク!」
 喜ぶゼロを尻目に、リンクはゾーラ姿のまま海洋研究所に向かった。博士は研究所の床面積のほとんどを占める大きな水槽のそばにいた。
「おおミカウ、待っておったぞ」
「ミカウ?」
 ゼロの不思議そうな視線を無視し、「これが最後のタマゴだ」と複数のビンを博士に手渡す。博士は「よしきた」とはしごで巨大水槽の上にのぼり、蓋の開いた部分からそうっとタマゴを水に落とした。
「全部のタマゴがそろった。……はじまるぞ。早く水槽の前に来てみるんじゃ!」
 何がなんだか分からないまま、博士を中心にして全員で水槽を覗き込む。
 水槽の中で合計七つのタマゴがぷるぷる震え出した。同時に生まれたきょうだいがそろったことで、ついに孵化がはじまったのだ。
 殻から飛び出たゾーラの子どもはどこかオタマジャクシに似ていた。大きな目と、ひょろりとした尻尾が特徴的だ。子どもたちは縦横無尽に水槽内を泳ぎまわり、やがて不思議な形で水中にとどまった。
 博士が大げさにのけぞった。
「コ、コレはいったい――おおそうか! ミカウ、オマエには分からんのか? このゾーラの子の並び方の意味することが」
 そう言われても皆目見当がつかず、考え込んでしまう。真っ先に声をあげたのはアリスだった。
『まるで楽譜のようですね』
 水槽の中に設置されたはしごを五線譜代わりにして、七つの音符が並んでいるように見えるのだ。
 そうか、とひらめいたリンクは魚の骨でつくられたギターを取り出す。ミカウの墓標代わりにした本物ではなく、時のオカリナが変化したものだ。
「それ、その楽器じゃ!」
 リンクはゾーラの子が織りなす一つのメロディをつまびいた。
 まるで潮騒のように寄せて返す音の並びだ。ノリは良いが、その曲調はどこか哀愁を漂わせる。リンクは、これこそが海のどこかにある神殿へたどりつくために必要なメロディであると確信した。
「う〜むっ。この曲を教えるためにこの子たちが生まれたんだとすると……このタマゴを産んだゾーラに早くこの曲を聞かせてみるのじゃ! この子たちの面倒はワシが見ておく」
「分かった」
 ルルがいるのはゾーラホールだろう。一行は研究所を出た。
 最速で目的地を目指すには海を渡るべきだが、ゼロがついてくるのは困難だろう。海岸沿いを歩くことになる。
 タマゴを産んだゾーラのこと、リンクがミカウと呼ばれたこと――疑問点は山ほどあるだろうに、予想に反してゼロは質問してこなかった。だが思いっきり「気になる」と顔に書いてあったので、リンクは説明してやる。
「あのタマゴは、ルルというゾーラが産んだものらしい」
 ゼロは飛び上がった。
「ルルさんが!? 知らなかった……オレ、あの人と三回くらい前の三日間で知り合いになったんだ」
 その時リンクはウッドフォールを訪れていた。同じようにタルミナを回っていてもその道のりはバラバラである。前回、例の忘れ物がなければ、ゼロとは一生顔を合わせなかった可能性もあったのだ。
「そういえばさ、リンクのかぶってるお面って、ミカウさんのもの……なの?」
 ゼロは遠慮がちに尋ねた。リンクはできるだけ、なんでもないことのように答える。
「ミカウは死んだ。俺がその魂を癒やして仮面にした。海岸に墓も作ってある」
 その真実は、ゼロとアリスに静かな衝撃をもたらしたようだ。
『そんな……海の大妖精様は、ダル・ブルーのみなさんでライブができる、と確かにおっしゃっていたのに』
「だが、ミカウが死んだのは事実だ」とリンクは重ねて告げる。
 しばらくゼロは無言だった。ショックを受けているのだろう。やがて、小さくも温度のある声で、
「でも……リンクが看取ってくれたんだよね。ありがとう」
 リンクは思わず振り向き、うつむくゼロの表情をうかがった。
「なぜ礼を言う?」
「キミが来なかったら、ミカウさんは誰にも見つけられないまま、海に沈んでたんだと思う。オレも前に来た時は会えなかったから」
 彼は故人を悼むように目を閉じた。リンクはさらに追い打ちをかけた。
「ミカウを殺したのはあの女海賊たちだ」
 ゼロの足が止まる。
『アンタ、そんなこと言わなくても――』
 さすがにチャットが割り込んだが、言葉は次々とあふれてきて止まらなかった。
「海賊がルルからタマゴを盗み、それを取り返そうとしてミカウは返り討ちにあった。海賊はお宝のためにミカウを手にかけたんだ。お前はそんなやつらと協力できるのか」
 わざわざゼロを苦しめたいわけではなかった。単純に、彼がどういう答えを出すのか気になった。
 ゼロはゾーラ姿のリンクをまっすぐに見上げる。
「それは――」
 紅茶色の瞳には、思いがけなく強い光が宿っていた。
「一人で海賊に挑んだからそうなった……ミカウさんの方にも少しは原因があると思うんだ。それに、海賊たちに協力してもらわないと無事にタマゴはそろわなかった。あの人たちがこの海にいるのは悪いことばかりじゃなかった、って……オレはそう思いたい」
 リンクはゆるく息を吐いた。
「……変なことを訊いて、悪かった」
「いいよ。大事なことだからね」
 ゼロのこういう性分は、記憶の蓄積によって身についたものではなく、生来その魂に刻まれたものだろう。リンクはそんな青年に、何かを期待する気持ちを抱きはじめていた。



 すっかり無言になって歩き続けた一行はやがてゾーラホールに到着した。
「ミカウ!」「どこ言ってたんだよ〜」「刻のカーニバルのライブ、楽しみにしてるぞ」
 などなど、入口をくぐった途端に次々とゾーラたちから声をかけられる。「ミカウ」の隣に当たり前のように並ぶゼロには不審の目を向けられることもあったが、「オレは熱心なファンです!」と主張して強引に突破した。
「ルルはいつもゾーラの岬でたそがれている」と、海賊の砦に行く前に会ったミカウの知り合いは言っていた。ゼロが「多分こっちにいるよ」と導いた先もそこだった。
 ゾーラホールから突き出た岬で、海の彼方を見つめていたドレスの女がゆっくりと振り返る。リンクの姿を認めると一瞬歓喜に湧いたが、開きかけた唇をすぐに結んでしまう。
『あの悲しげな顔は、アンタに何かを伝えたい……そんな表情ね!』
 チャットが鋭く推理した。一行の中で、彼女が一番女性の気持ちに敏感であろう。
 リンクは前に出た。
「ルル。タマゴは全て取り返した。こいつの協力もあってな」
「ど、どうも」
 ゼロの動きはぎくしゃくしていて挙動不審そのものだ。当然、ルルは彼のことを覚えていないだろう。
 ルルは黙ってほほえんだ。その顔すらどこかさみしげだ。
「それで、タマゴから孵った子どもたちがこの曲を教えてくれたんだ」
 そう前置きして、リンクはギターを演奏する。
 これは潮騒を伴奏にして奏でることを前提としたメロディなのだ、と気付かされた。寄せては返す波のタイミングと、曲の求めるテンポが同じなのだ。
 曲がループした時、ルルはごく自然に口を開き、ギターの上に伸びやかなコーラスを載せた。
「声が戻ったんだ……!」ゼロが小声で叫ぶ。
 ルルは自分でも信じられないというように喉をさすった。
「ミカウ、コレはいったい? それに私の声……私、どうしちゃったの?」
 彼女が混乱しながらリンクに詰め寄った、その時だ。
「うわ!?」
 その変化に一番最初に気づいたのはゼロだった。海の方を見つめて腰を抜かしている。視線の先を追うと、岬から目と鼻の先にあった離れ小島ががくがく震え、白波が立っている。島の表面を覆っていた土が徐々に剥がれていき、その下からひび割れた肌が露出した。
「ふわぁ〜あ〜っ、よく眠ったぞ〜い!」
 朗々とした声が響き渡る。小島はいつの間にか巨大なカメに変身していた。島だった時の名残で、甲羅の上にはヤシの木が生えている。全員、唖然としていた。
「ついこの間目覚めたと思っておったが、月日が経つのは早いものじゃ。のう、ルルよ……」
 カメは慈愛のまなざしをルルへと向ける。対する彼女は、またしても声を失ってしまったかのようにぱくぱく口を動かすだけだ。
「うん? 驚くことはないぞい。ワシは眠っていてもこの海で起きた事は全てお見通しなのじゃ」
「ミ、ミカウ……」ルルはリンクに助けを求める。
「ふむ、どうやらルルは混乱しているようじゃな。まあムリもないが。
 さてさて、残念じゃがあまりゆっくり話をしている時間はないんじゃ。さあ、ゾーラのほこり高き戦士の子よ……沖のグレートベイの神殿がお前の力を必要としておる。早くワシの背中に乗るのじゃ」
「沖に神殿があるのか」
 ならば話が早い。すぐに甲羅へ飛び乗ろうとするリンクへ、
「オレも行くよ!」
 ゼロは海賊からもらったフックショットを差し出した。
「……好きにしろ」
 仲間かどうかという問題はひとまず置いても、ここまで来たら神殿まで連れて行ってもいいだろう、という気になっていた。ゼロはほっとしたように笑う。
 リンクはルルを振り返り、
「明日には戻る。ルルはゆっくり休んだらいい」
「え、ええ。気をつけてね……ミカウ」
 ルルは名残惜しそうにしていたが、時間がないのは事実だ。即座にゼロのフックショットを活用して甲羅に乗り込み、沖へと出発した。
 十分にゾーラホールから離れたところで、リンクは一旦仮面を脱ぐ。金の髪が潮風になびいた。
「神殿はあの竜神雲の中じゃ」
 カメが向かう先は、海面すれすれまで分厚い雲が覆う一帯だった。次第に波が強くなる。
「竜神雲って、海賊たちがお宝があるって言ってた場所だよね」
 神殿にお宝はないだろう。どうやらガセネタだったらしい。これで宝を巡るゴタゴタに巻き込まれずに済む、とリンクは楽観視したのだが。
 ずんずん進むカメに、一艘の小舟が近づいてきた。
「アベールさん!」
 女海賊たちだ。リンクはとっさに身構える。だが、彼が海ヘビの巣に行っていた間のやりとりのおかげか、海賊はゼロとすっかり打ち解けていた。
「なんだいその乗り物は。そんなのでお宝にたどり着けるのかい」
 小舟の先端に足をかけたアベールが声を張り上げる。ゼロは甲羅から身を乗り出した。
「た、多分……。でも危険ですから、オレたちが先に行きます!」
「何言ってるんだい。すぐそこにお宝があるのに、見ているだけってのは海賊じゃないねえ」
 アベールは不敵に笑うと、部下に命じて小舟のスピードを上げた。カメはどんどん離されていく。
 心配そうに見つめるゼロに対し、「放っておけ」とリンクはあくまで無関心を貫いた。
 竜神雲に突っ込んだ小舟は、予想通り竜巻のような暴風に空高く巻き上げられていく。きゃあきゃあという悲鳴すら風に飲み込まれた。
「ああ……」
『言わんこっちゃないわね』
 チャットもこういう時はドライだ。まあ、あれだけ宝への執着が強ければ、この程度で諦めるはずがない。なんとしてでも岸にたどり着いて、再び竜神雲を目指すくらいの根性はあるだろう。
 今度はこちらが竜神雲に挑戦する番だった。カメはしずしずと雲の中に侵入していった。不思議なことに、微風すら感じない。
 視界を覆う乳白色が徐々に消えていく。分厚い雲の壁を越えたようだ。中は天井が抜けていて快晴だった。
 そして、海の中心に岩の塊のようなものが見えている。
 リンクはゼロの方を振り返った。
「あれがグレートベイの神殿だろう。タルミナの各地方には、それぞれ守護神を祀る神殿がある。それは知っているか」
「うん、オレもウッドフォールの神殿には入ったことがあるよ。魔物がいっぱいいるんだよね」
「そうだ。そして俺の目的は、神殿の最奥にいる魔物を打ち倒すことだ。それでこの海の異変――温暖化はなくなるはずだ」
「オレもできる限りのことはするよ」
 と、ゼロはすぐに引き受けたが、隣のアリスが口を挟んだ。
『リンクさんたちは何故そのことを知っているのですか? 各地の異変を起こした者のことを、知っているのではないですか』
 当然の指摘だ。リンクはチャットと目線を合わせる。ここですべてを話してしまおう、と決めた。
「タルミナの異変は、全てスタルキッドという名の小鬼が原因だ。カーニバルの日に月を落とそうとしているのもあいつだ」
 いつもは脳天気なゼロも、さすがに顔色を変えた。
「スタルキッド! 大妖精様をバラバラにしたやつだ……!」
『あいつ、そんなことまでやってたのね……』
 チャットの口調は重い。アベールの話からすると、海賊たちをそそのかしてタマゴを盗ませたのも、おそらくはあの小鬼だった。スタルキッドは間接的にミカウの死因を作ったことになる。
 ゼロは難しい顔をしてあごに手をあてる。
「タルミナのあちこちで同時に異変を起こすなんて、相当だよね。スタルキッドってそんなに力があるの?」
「やつ自身の力ではない。ムジュラの仮面、という呪いの仮面をかぶっているから厄介なんだ」
「ムジュラの……」『仮面、ですか』
 珍しくゼロの眉間にしわが寄った。アリスの声もどこか重苦しい。
「とにかくいわくつきの仮面だ。残念ながら、今の俺ではやつにかなわない。だから各神殿を回って、四方の神の助けを得ている。スタルキッドが神殿に配置した魔物によって、守護神たちが封印されているからな」
 ゼロはしばらく黙っていた。カメの足が波をかき分ける静かな音だけが耳に入る。
 やっと唇を開いた彼は、リンクにとって意外な疑問を口にした。
「そんなに大変なこと、チャットと二人だけでずっとやってたの?」
「……そうだ」
「そっか」
 ゼロは痛みをこらえるように唇を噛んだ。
「手伝うよ。オレも月を止めるために、何かしたい!」
 リンクは何故か言葉に詰まり、ぼそぼそと話す。
「別に……月を止めるのはただの手段だ。俺は自分の故郷に帰りたいだけだ」
「故郷に?」
 それきり黙ってしまったリンクに、チャットが助け舟を出す。
『ムジュラの仮面は、スタルキッドがお面屋っていう人間から盗んだものでね。で、こいつはお面屋との約束があるから、どうしてもそれを取り返さないといけないのよ』
(そうだ。だから、俺はタルミナをどうこうしたいわけではない)
『ですが、月を落とさないために時を巻き戻しているのは、リンクさんですよね』
 アリスはずばりと核心を突く。元相棒とそっくりな青い妖精と相対すると、リンクはどうもやりづらかった。
「ああ、そうだ」
 ついに認めてしまった。どことなく後ろめたい気分になるリンクだったが、ゼロはふわりとほほえんだ。
「やっぱり。ずっと見えないところでオレたちのこと助けてくれてたんだね。ありがとう」
 リンクは感謝を求めて行動していたわけではない。時を繰り返す度に皆の記憶は消える。そのため、彼の功績は認識すらされないはずだった。それなのにゼロやアリスやルミナが現れ、ありえなかったはずの言葉を受けとった。正直、リンクは動揺していた。
 今度は自分の番だ、とばかりにゼロは口を開く。
「オレとアリスは記憶の手がかりを探しながら、スタルキッドにバラバラにされた各地の大妖精様を復活させて回ってるんだ。もう谷以外は全部助けたんだよ」
『アンタたちそんなことしてたんだ……! そうそう、前に町の泉に行った時、誰もいないから変だと思ったのよ』
『四方すべての大妖精様を解放した時、町の大妖精様が姿を現すそうです』
 月の落下阻止とは直接関係なくとも、ゼロは自分で考えてタルミナのために行動していた。リンクは、前回の三日目にルミナが「わたしは自分にできることをやりたい」と言っていたことを思い出す。
 よほど皆このタルミナが好きなのだろう。自分が生きていくべき場所なのだから当然と言えば当然か。ならば、リンクは――? 
 それまで口を閉ざしていたカメが、急にしゃがれ声を出す。
「おしゃべりもいいが、そろそろグレートベイの神殿じゃぞ」
 カメの体の何倍もある大きな岩に、ちょうど通れるサイズの穴が開いている。神殿はこの中らしい。
 リンクは上陸に備えてゾーラの仮面をつけ直した。
「これから神殿を攻略する。水が絡む神殿は手強いぞ。足手まといになるなよ」
「う、うん!」
 こうして、リンクにとっては前代未聞となる、人間の仲間を連れた神殿攻略がはじまった。

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