第五章 亡国への鎮魂歌



 仲睦まじく何ごとか会話しているゼロとアリスを眺め、チャットがつぶやく。
『ねえ、アリスってまさか、ゼロのこと――』
「なんだ」
 チャットはリンクの方を振り返り、『いやあ、ちょっとね』と言葉を濁す。
『それよりアンタ、あんな長話もできるのね』
 先ほど「時の勇者の伝説」と題して語ったことだ。内心リンクはどきりとする。
「退屈だったか」
『ううん。ゼロのこともそうだけどさ、使命って面倒くさそうね』
「そうだな。確かに面倒だ」
 チャットの感想はそれだけだった。しかし、なんとなくリンクは安心したのだった。
 放っておいたら延々と話し込んでいそうなゼロたちに声をかける。
「ところで、ロックビルの神殿にはどうやって入るんだ」
 宙に浮いた足場の先にある入口と思しき場所は、石の壁で閉ざされていた。イカーナ王は、神殿を進むのに必要な「心を持たぬ兵」を授けてくれたが、入口の突破法は教えてくれなかった。
 振り返ったゼロはにこやかで、すっかりいつもの明るさを取り戻していた。リンクは肩の荷が下りたような気分になる。ずっとあんな思いつめた顔でいられたらたまったものではない。
「ああ、それは大妖精様に聞いておいたんだ。この光の矢、ボス・ガロに盗まれてたらしいんだけど、これを使うんだって。多分あそこに打つのかな」
 扉の上部にある赤い石を指差す。そういえば血塗られた印がどうこうとガロが言っていた。
 ゼロはさっそく弓を構える。矢じりからまばゆいばかりの光がこぼれた。光はどんな魔物にも絶大な効果を発揮する特別な属性だった。
 その時、アリスがいきなり飛び出した。
『ゼロさん、待ってください!』
 制止は間に合わなかった。「え?」放たれた矢は勢いよく飛び、赤い石の正中を射抜く。
 ゴゴ……とどこからともなく鈍い音がした。リンクは頭に血の上る感覚がした。地面がぐらりと揺れる。
(なんだ?)
 突然強い力が足先から脳天へと伝わる。十分な準備をする暇もなく、彼は空中に放り出された。その先は茜色に染まる空だ。
 上下の区別がつかない。まるで空の向こうに地面があると思わせるような勢いで、何もない方向へ引っ張られる。
(天地がひっくり返った……!?)
 彼はなすすべもなく空に吸い込まれていく。
「リンク!」



 手を伸ばしても決して届かない、あの青い光を思い出す。
 使命を果たせば、もう別れるしかないのか。唯一無二の相棒と思っていたのは自分だけだったのか。だが、それも当然なのかもしれない。なぜなら彼は、与えられた使命の方を選んでしまったから。自分の気持ちも他人の思いも置き去りにして、ひたすら何も考えずに剣を振るう道を選んだ。
 だから、これは当然の結果なのだと……ずっと、そう思っていた。
「大丈夫!?」
 一瞬意識が飛んでいたらしい。気づくとリンクは腕一本で足場からぶら下がっていた。
 片手で足場のふちを掴み、反対の手でリンクの手首をしっかり握っているのはゼロだった。
「ほら、今度はちゃんと手が届いた。ロマニー牧場の時は間に合わなかったけど」
 ゼロはにこりとした。ついさっきまであれほど混乱していたのに、今は強がる姿すら見せる。
 ロマニー牧場で熱を出し、ゼロの目の前で倒れた時のことを言っているのだろう。あんなささいな出来事をまだ気にしていたのだ。
 ゼロだって、万全の状態なら子ども一人を持ち上げるのは造作もないはずだ。が、いかんせん体勢に無理があった。二人は徐々にずり落ちていく。妖精たちはどうすることもできず、固唾をのんで見守っていた。
「お前――」リンクが声をかけると、
「絶対離さないから」
 ゼロは一層腕に力をこめる。リンクはふ、と軽く息を吐いた。
「当たり前だ。そのまま支えていてくれ」
 まぶたを閉じた。イメージするのは、強く吹き上がる緑の風だ。
「うわっ」
「下にある空」から突如として湧いた上昇気流に押され、二人の体はふわりと浮かび上がった。魔法でつくられた気流は二人分の体重を軽々と持ち上げる。
 ほのかに緑色をした風は、丁寧に二人を足場まで運んだ。強がっていても限界が近かったのだろう、ゼロは大きく息を吐いて肩をさする。
「い、今のは?」
「フロルの風という転移魔法だ……が、もう打ち止めだな」
 リンクは「かつての冒険」において授かった三種類の魔法を、一回分ずつ残してきたのだった。
『結局、全部他人のために使ったわね』
 チャットの言うとおりだ。鍛冶屋の氷を溶かすためにディンの炎を、グヨーグの攻撃からゼロを守るためにネールの愛を、そして今回はフロルの風を。だが後悔はしていない。全て適切なタイミングで使ったと断言できる。
「そうなんだ。ありがとうリンク」
「いや、お前が支えていたから……一瞬で落ちたら魔法を使う暇もないところだった」
 目をそらしながら言うと、ゼロがきらきらした視線を向けてくるのが分かる。
 チャットは足場のふちからおそるおそる下を覗き込む。
『それにしても、びっくりしたわ。一体何が起こったの?』
『あの赤い石は、天と地を逆転させる作用があったようです』
 リンクは首を上向けた。必死に登ってきたロックビルの風景が上下逆さまに伸びている。
「天地が反転したとはいえ、タルミナの全員が俺たちのようになったわけではないだろう」
『ええ。おそらくロックビルの周辺だけでしょうね』
 ともあれ、神殿の扉は開いた。ここにイカーナに呪いをばらまいた元凶がいるのだ。
『確かイカーナ王は、神殿の闇にまどわされないよう気をつけろって言ってたわね』
 入口の仕掛けからして、明らかに他の神殿よりも危険度が高い。気を抜かずに行くべきだろう。
「一度あの歌を試してみるか」
 リンクはオカリナを取り出し、ぬけがらのエレジーを奏でた。
 メロディが響き渡り、確かに効果が発動したはずだった。が、特に変化はない。
「リンク、後ろ!」
 ゼロが目を丸くしている。一歩前に出てから振り返った。そこには、オカリナを吹いた姿のまま固まった、半透明の「リンクのぬけがら」がいた。
「これが心を持たぬ兵なのか」
 納得できない心地でぬけがらに触れた。それが合図だったのか、ぬけがらは「起動」し、ひとりでに神殿の入口へと歩いていく。心を持たないという触れ込み通り、ぎくしゃくした動きだ。
「よし、行くぞ」
「う、うん……」
 ゼロは不思議そうにぬけがらと本物を見比べている。そんなに似ていないだろうに。
 ぬけがらが先に入口をくぐり抜ける。何も変化は起きない。なら大丈夫だろう、とリンクはあまり警戒せず、神殿に足を踏み入れた。
 その刹那、視界が暗くなった。
(なんだ……?)
 突然、幕が下りたように目の前が黒く塗りつぶされた。自分のつま先すら見えないほどの真っ暗闇である。
 まさかこれが神殿の闇なのか。心を持たぬ兵も、ゼロや妖精たちの姿も見えない。あろうことか自分が真っ先に罠に引っかかってしまったようだ。
(何か光源になるものはないか)
 手探りで荷物を探る。何か硬いものに触れた。これはお面だ。
 不意に視線を感じて顔を上げると、目の前に小さなデクナッツがいた。光っているわけでもないのにその姿だけははっきりと見えた。
「お前は……」
 そのデクナッツには見覚えがあった。お面屋からいやしの歌を教わった時に会ったことがある。デクナッツの仮面に宿る魂――おそらくは、デクナッツ王国に仕える執事の息子だ。行方不明になったと聞いていたが。
 リンクは手に当たる感覚が消失していることに気づいた。仮面がない。デクナッツの仮面だけでなく、ゴロンやゾーラも見つからない。
 デクナッツはただじっとリンクを見上げている。
「俺に伝えたいことがあるのか?」
 が、デクナッツは黙ってきびすを返し、てくてく歩いていく。後を追うしかなかった。
 はぐれたのが自分だけならば良いのだが。万一ゼロと妖精たちが離れていたら面倒なことになるな、と考えながらリンクは駆け出した。



 ロックビルの神殿に入る瞬間、わずかに抵抗があった。薄い空気の膜を通ったような感覚だった。
「ねえ、今なんか――」
 ゼロはすぐ横にいたはずの仲間を振り返る。
「あれっ」
 そこにいたのは妖精たちだけだった。「リンクは?」
『い、今、神殿に入った途端、アイツ消えちゃったのよ!』
 チャットがわなわな震えている。これはただごとではない。
「リンクーっ!」
 青ざめたゼロが叫んでも、返事はなかった。
 天地が反転したロックビルの神殿は、独特なつくりをしていた。本来ならば「天井が抜けていて開放的」と言えるところだが、天地の反転した今は、細い足場を少しでも踏み外せば空に向かって真っ逆さまである。慎重に足場を渡りながらゼロはあたりを探し回る。
『ぬけがらも消えてるわよ!』
「こ、これってどういうことだろう?」
 アリスは動揺しきりの二人を落ち着けるように、あの冷静な声で見解を述べる。
『ロックビルには裏がある、と大妖精様はおっしゃっていたのですよね。リンクさんは、私たちのいる場所の反対側――裏もしくは表の神殿に行ってしまったのかもしれません』
 同じ神殿でも位相がずれていて、裏と表は互いに認識できないのだろうとアリスは言う。
「とりあえず……リンクは無事なんだね?」
『はい』
 アリスの断言に気休め以上のものを感じ、ゼロは胸をなでおろした。こうなればリンクを信じるしかない。ゼロが一人で放り出されるよりはよほど安心だ、と自分に言い聞かせる。
『なんでアタシたちは全員こっちにいるのかしら』
『命というものが、心と体に分かれるとして……心を持たないぬけがらは、リンクさんとともに反対側の神殿にいるのでしょう。ならば、おそらく私たち妖精のような「肉体を持たない者」だけがこちらの神殿にやってきた、ということかと』
『それじゃあゼロは――あ、ゴメンっ』
 慌てて取り繕ったチャットは光を弱め、ゼロの顔色をうかがう。
「気にしないで。オレは、リンクよりもアリスたちに近いってことなんでしょ」
 鬼神などと告げられた時から覚悟していたことだ。アリスも申し訳なさそうにしている。
「それよりもリンクとどうやって合流しようか……あれっ?」
 何気なく後ろを振り返ったゼロが、その姿勢のまま固まった。妖精たちは視線の先を追う。
 当然リンクもぬけがらもいない。だが、その代わりに見覚えのあるシルエットが二つ並んでいた。すらりと背の伸びたゾーラ族に、体格の良いゴロン族だ。
「ここはオレたちに任せてくれ」「オラたちが道をつくるゴロ!」
 見間違いではない。ゼロたちは同時に叫んだ。
「ミカウさん!? それに」『ダルマーニ三世!』



 延々と続く暗闇には、いつまで経っても慣れそうにない。
 ここにはデクナッツだけがいて、ダルマーニやミカウはいない。それは何故なのか。
 リンクは子どもデクナッツの後ろ姿を追いかけながら、ひたすら考えていた。自分とゼロたちの違いを考えるよりも、そちらから攻める方が近道だと思ったからだ。
(俺はこいつとろくに話したことがない)
 魂の存在は感じても、対話できたことはなかった。唯一、ウッドフォールの神殿では一瞬だけ心が通じる瞬間があった。「故郷を救いたければ力を貸せ」と仮面に呼びかけ、応えてもらった覚えがある。
「おい、お前」
 リンクはデクナッツの名前を知らない。執事からも聞いていなかった。
 当然デクナッツは振り返らず、ふらふらと歩いていく。身軽な分ペースが速い。
 リンクにしては珍しく、無言でいることにも飽きていた。続けて声をかける。
「この間は助かった。ウッドフォールの神殿でオドルワと戦った時、お前の力がなければ切り抜けられなかった」
 デクナッツが足を止めた。リンクは目を見張る。その足元がぼんやりと明るく色づいたのだ。まるでデクナッツから光が広がるように。
 理屈は分からずとも、この闇から抜け出す方法がつかめた気がした。
「はじめの三日間でもそうだ。スタルキッドに無理やりかぶせられた仮面だったが、デク花のジャンプやシャボン玉は役に立った。感謝している」
 振り向いたデクナッツの目は、相変わらず寂しそうな形をしていた。それでも明かりはどんどん増していく。ロックビルの神殿のものと思しき石の床や壁が見えてきた。
 自分の手足を確認し、手首に巻かれた紐を見て、もはや疑いようもなくリンクは悟った。
(こいつと対話すれば道が開ける!)
 一歩近寄った。もうデクナッツは逃げなかった。
「お前は何故行方不明になったんだ。執事は心配していたぞ」
 デクナッツは突然肩を跳ね上げると、またふらふら走り出してしまう。
(……だめか)
 まだそこまでは踏み込ませてもらえないらしい。リンクは対話や説得など得意ではない。それはゼロや妖精たちの分野だ。
 しかし今ここにいるのは自分だけだ。なんとかして自力で切り抜けなければならない。
 ロックビルの神殿は細く安定しない足場ばかりだった。グレートベイなら水に落ちてもなんとかなったが、ここの場合は床に叩きつけられるのはまだいい方で、最悪何もない空中に放り出されてしまう。デクナッツの危なっかしい動きをひやひやしながら追いかけた。
 ――と、いきなり地面が跳ねた。
「なんだ……!?」
 とっさに身を低くする。魔物の気配がないから油断していた。
 向こうからやってきたのは巨人だった。ただし、ガイコツの。スタル・キータとよく似ていて、もしや同僚かもしれない。
 デクナッツは気づいているのかいないのか、巨人の足元に吸い寄せられていく。
「おい!」
 思わずスピードを上げて追いつき、デクナッツの手をぐいと引いた。潰される前になんとか踏みとどまる。
 巨人がこちらに気づいた。リンクはふところをさぐる。隊長のボウシは――ある! 
「スタル・キータ……?」
 かぶったボウシに巨人が反応した。「ずいぶん縮んだな。まあ、あれから長い年月が流れたからな……」
 イカーナ王のように端から信じてもらえないのも腹が立つが、こうやって無理に納得されるのも複雑な気分だ。
「お前はここで何をしていた」
 おとなしくなったデクナッツの手を離し、巨人に向かって問うた。相手はかぶりを振る。
「……何も。もうイカーナは滅びたのだ、我らがすべきことはない」
「鬼神は生きているぞ」
 正確にはゼロと名乗っているんだ、俺の仲間なんだと言いたかった。だが、それは今必要な言葉ではない。
 巨人の眼窩に宿った光が強くなる。
「あの方が生きておられるのか……!」
「ああ。イカーナを守れなかったと悔やんでいるようだったが」
 断片的な記憶しか持たないくせに、ゼロはよくあそこまで責任感を持てるなと思う。おそらく一直線に心をそちらに傾けることで、押しつぶされそうな現実に対処しようとしたのだろう。残念ながらリンクがそれを曲げてしまったのだが。
「そんなことはない。鬼神どのは最後まで戦ってくださったのだ。そうか、ならばイカーナはまだ滅びていない……!」
 静かに歓喜する巨人とは対照的に、リンクの内心は平常通り冷めていた。
 だが、ここからやり直せることもあるだろう。国が滅んでも土地ごとなくなったわけではない。亡霊から精神を受け継ぎ、新しく芽吹くものだってあるはず。それが新しいイカーナをつくっていくのだ。
「スタル・キータよ、お前に力を貸そう。だが、私はかつての戦いでこの神殿に突入したはいいものの、倒すべき敵も出口も分からず、長い間ここに閉じ込められているのだ……」
 今までさんざん亡霊たちに苦労させられてきたリンクにとっては、呪いを受けていないだけで上出来と思えた。
「なら、いい方法がある」
 リンクはオカリナを口元に寄せ、いやしの歌を吹いた。
 魂の宿った仮面ならばリンクと共に移動できる。巨人はまるで目を細めるように、頭蓋骨の奥の光を弱めた。
「ああ……助かる。神殿の最奥にたどり着いたら呼んでくれ」
「なら、最深部まで行く方法を知らないか」
「それはきっと、そこの者が案内してくれるはずだ」
 指名されたのはデクナッツだった。やはり彼が鍵を握っているのだ。
 からんと音を立てて仮面が落ちる。巨人の仮面と呼ぶべきそれは、生前の顔と思しき雄々しい面構えをしていた。
 仮面を拾い上げたリンクは、(本当に案内してくれるのだろうか)と訝しげにデクナッツを見つめた。
「……ねえ、きみはどうして他人の頼みを聞くの」
 その声は目の前のデクナッツから発せられていた。元の声質もあってなかなか聞き取りづらく、リンクは耳を澄ませる。
「いつも勝手にあれこれ託されて……イヤじゃないの」
 このデクナッツとは、タルミナの旅の最初期から付き合いがある。リンクが様々な人から願いを聞き約束を果たそうとする様子を、この旅の中で何度も見てきたはずだ。
 リンクは息を整え、ごく真剣に答える。
「嫌ではないな。それなりの見返りももらっているから当然だろう」
「そうかな。逃げ出したくはならないの」
「俺にとっては、頼みを聞く方が逃げ出すよりもずっと楽なんだ」
 さみしげな瞳が目一杯に見開かれる。
「……最初はちょっとした家出のつもりだったんだ」
 デクナッツはぽつりぽつりと自身について語りだした。
 過保護な親を心配させてやろう。そう考えたデクナッツは、不思議の森のさらに奥へと走っていった。
 そこで仮面をかぶった小鬼と出会った。嫌な予感がしたけれど、体がすくんで逃げることはできなかった。
 小鬼に「オマエ、ちょうどいいな」と言われたのはどういう意味だったのか――何も分からぬまま、仮面越しににらまれて体が冷たくなっていく。もう父や幼なじみの姫とは会えないのだと悟った。重い体から魂だけが引き剥がされ、気がついたら仮面になってしまっていた。
「だから、もうどうでもいいやって思ったんだ……」
 ダルマーニとミカウは、リンクがある程度会話し、遺志を引き継ぐ姿勢を見せたからこそああして素直に力を貸してくれた。一方、リンクとろくに対話してこなかったデクナッツだけは、わだかまる思いを抱えたままだった。
 リンクは辛抱強く諭す。
「自分が死んだ後のことはどうでもいいのか。執事も姫も、死のうが生きようがもう関係ないのか?」
 デクナッツの瞳が揺れる。
 先ほど出会った巨人は、鬼神の生存を知って歓喜していた。死者といえど考え方はそれぞれで、どちらの態度が正しいということもない。しかし、リンクとしてはデクナッツに離反されるのは困るのだ。
「あと少しだけ力を貸してくれ。代わりに俺がタルミナをどうにかする。その後は好きにしたらいい」
「……分かったよ」
 リンクが差し出した手のひらに、乾いた木のような手が重なる。きらきらと光の粒が散ったかと思うと、デクナッツの体が半透明になっていく。
 仮面には魂が宿る。リンクはその力を体に降ろして変身する。ならば、このデクナッツは今どうやって現界していたのだろう。
(そうか、こいつはぬけがらの体に宿っていたんだ)
 視界にまぶしい光が満ち、周囲の景色が変質していくのを感じる。もうひとつのロックビルの神殿に挑む時が来たのだ。

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