第七章 月と星



 楽譜なんて読めないとわめくルミナに、カーフェイは食って掛かった。
「お、お前なあ……芸人なんだろ、あのギターどうやって弾いてるんだよっ!?」
「一回聞いたら覚えられるから! いっつもみんなに教えてもらってて……」
 アリスの光は青色を通り越して白くなっている。
『い、いえ。きちんと確認しなかった私が悪いのです。今から演奏するので、それを聞いて覚えてください』
 アリスが羽根を鳴らそうとすると、ひときわ大きな振動が時計塔を襲い、人間たちは皆なぎ倒された。
 いくらなんでもこんな状態で覚えられるわけがない! ルミナはしゃがんで両手を祈りの形に組む。
(ああっ大妖精様、いや時の女神様でも誰でもいいから、助けて……!)
 その時だった。
 ばたんと音を立てて扉が開く。その場に集った皆が弾かれたようにそちらを見る。
「こんなところで何してるんだ、ルミナ」
 呆れたような男性の声が鼓膜を叩いた。涙を流すお面が妙に似合うその顔は、確かにゴーマントラックへ避難したはずの――
「座長!? なんでここにいるの」
 ルミナは飛び上がり、ゴーマン座長に詰め寄る。
「それはこっちのセリフだ。お前が全然ゴーマントラックにやってこないから、こっちは心配して町を探し回ったんだぞ」
 ルミナの目尻にじわりと涙が浮かぶ。彼女は持っていた楽譜を座長の胸に押し付けた。
「お願い座長。何も言わずにこれを演奏して!」
 持っていたギターを一緒に渡す。うるうるするルミナと楽譜を見比べ、座長は盛大なため息をついた。
「お前……また読めないって駄々こねたのか」
「うぐっ。そ、そうだよ。だから座長の音を鐘で追いかけるの!」
『すみません、私からもお願いします』
「仕方ないな……」
 アンジュたちが見守る中、ゴーマン座長は唇の端を吊り上げてギターを構えた。
 はじめは単純な三音だった。ルミナはギターの音色をよく聞き、それに合わせて手元を操作し鐘を鳴らしていく。
 これは鎮魂歌なのだろうか。終末の夜にふさわしいさみしげな音色で、何もこんな気が滅入るようなメロディをわざわざ月が落ちる晩に演奏しなくてもいいのに、とルミナは考えてしまう。
 最初の三音が繰り返され、それから次の旋律に移った。
 何度もリピートする旋律は、この三日間を思い起こさせた。永遠と思えるほど長く続いたけれど、もうすぐ終わってしまうカーニバル前の三日間。今になってみると少しだけ惜しい気分にもなる、色んな意味で特別な時間だった。
 主旋律をルミナに任せ、ゴーマン座長は即興で副旋律を演奏しはじめた。鐘とギターのセッションは珍しいが、ルミナと座長には、同じバンドにあこがれて芸の道に入った者同士の連帯感があった。
 物悲しいメロディは副旋律によりあたたかく色づいて、月への恐怖を緩和するように胸に染み込んでいく。
 アリスが鐘の音に合わせて小さな声で歌っていた。彼女は今、何を思っているのだろう。
(これだけ苦労したんだから、ちゃんとリンクたちに届いてよね……!)
 ルミナは祈るような気持ちで、完成した「いやしの歌」を鳴らし続けた。



 タルミナが、ハイラルの聖地だった。
 自分はいつトライフォースにふれた? 初めて時の扉をくぐった時は、自分より先に魔王が接触したはずだ。そして聖三角はばらばらになり、魔王に力の、姫に知恵の、そして勇者には勇気のトライフォースが宿った。
 トライフォースは三つ揃わなければ本来の力を発揮しない。聖地を変えてしまうほどの力を持たない。ならば、魔王を倒して七年前に戻る時――ゼルダ姫によって送り返されたその瞬間しかない。時の扉とその先にある聖地を通り抜け、リンクが完成したトライフォースにふれたことで、聖地はタルミナとなったのだ。
 そしてゼロやルミナ、アリス、チャットたちは、彼が願ったとおりにつくられた。
 だってそうだろう、いくらなんでも都合が良すぎる。見知らぬ土地で、自分に力を貸してくれる仲間がこんなにたくさんできるはずがない。彼らはリンクが願ったから生まれた存在だったのだ。
『何ボーッとしてんのよ。ちょっと、ねえ!』
 チャットの叫びが遠くに聞こえる。視界に紗がかかったように現実感がない。
 いつの間にかムジュラの仮面をかぶった少年も、青空の下の大樹も消えていた。閉塞感のある部屋の中で、閃光を散らして二つの影が激しく飛び回っている。
(ゼロ……?)
 大鎌を持った少女とゼロが戦っている。互いに衣が切れ、あちこちから出血している。短くなった袖から覗くゼロの肌には、うっすら模様のようなものが浮かんでいた。
 呆然とするリンクに気づいたのは少女の方が早かった。彼女はにやりと笑うと大鎌を振るい、その軌跡が衝撃波となってリンクに迫る。
「リンクっ!」
 誰かが目の間に割り込んだ。
「……ゼロ?」
 弓を負った背中がくずおれる。金剛の剣がからんと落ちた。棒立ちになるリンクの前で、ゼロが力なく床に倒れた。みるみる血溜まりが広がっていく。
 大鎌の少女は歓喜に沸き立ち、唇を震わせた。ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「やっと……ここまで来たのね。待っていたわよ時の勇者!」
 リンクの耳には死をもたらす少女の声も、チャットの警告も入らない。
『バカ、早く逃げなさい、リンクってば!』
 真っ黒な服を着た死神がその鎌を掲げ――不意に膝をついた。
「あいつ、また余計なことを……大妖精!」
 少女は吠えた。耳をおさえてうずくまる。
『この曲って……』
 月の中の閉鎖空間に、いやしの歌が響いていた。耳慣れた鐘の音によって、力強く奏でられている。
 だが、今のリンクはそれすら意識の外だった。ただ腕の中にいる青年だけを見ている。
「リンク、良かった……無事だったんだ」
 ゼロはうっすら目を開け、血塗れた手を持ち上げる。
 崩れ落ちる体、炎に包まれる町。知らないはずの光景が次々とリンクの頭にフラッシュバックする。
(俺は何を見ているんだ)
 ゼロの腕を握ろうと差し出した左手には、あの紐がきらめいている。つややかな糸で編まれたそれは、いつ、誰にもらったものだったか。
 ――リンク、必ずハイラルを救ってね。
 別れ際、そう言い残した人物がいた。
 その時リンクは、失われた自分の記憶を取り戻したのだった。



 リンクには、ハイラルの王女から託された使命があった。
 今となってははるか昔に思える「七年前」、三つの精霊石を集めた直後のことだった。
 魔盗賊と呼ばれる男から逃げていく騎馬には、王女ゼルダとその従者が乗っていた。すれ違いざま、リンクは姫から青いオカリナを託された。
「あなたがこのオカリナを手にした時、私はあなたの前からもういなくなっているでしょう。
 あなたを待っていたかったけど、もう間に合わない……せめて、このメロディをオカリナにこめて送ります」
 王家の秘宝という時のオカリナにふれると、頭の中にゼルダ姫の声が蘇る。続いてオカリナの音色も。それが時の歌だった。
「さあ、時の神殿の石板の前で、この歌を! トライフォースはあなたが守って!」
 その後、どこをどう歩いたのか思い出せない。気づけばリンクは城下町のはずれにある時の神殿、さらには聖地につながるという時の扉の前にいた。
 そうだ、時の歌は本来この扉を開くためのものだった。三つの精霊石を持って時のオカリナでこの曲を吹く。そうすれば、トライフォースが安置されている聖地への扉が開くのだ。
 リンクは何かに導かれるようにオカリナを吹いた。
 開け放たれる時の扉。その先で、彼は退魔の剣と出会った。
 目に入った瞬間から惹きつけられていた。誰かに言われたわけではないのに、彼は剣の柄を握って足を踏ん張る。そして、身の丈に対して明らかに長すぎる剣を、台座から抜き放った。
『リンク……!』
 かつての相棒の声が遠ざかる。まばたきすると、リンクは聖地にいた。
「おかえり、リンク」
 見慣れない青年がすぐそこで待っていた。白銀の髪を後ろでひとつに縛っている。目の色は精霊石の一つ、ゴロンのルビーと少し似ていると思った。彼はリンクを見つめて穏やかにほほえんでいる。
 リンクはどうやら、背後にある大きな時計塔の中から出てきたらしい。もう扉は閉まっていた。
「何故、俺の名前を知っているんだ」
 尋ねながら、彼は心のどこかで納得していた。今自分がいる場所にも、目の前の青年にも、違和感がまるで湧き上がらなかったからだ。
 自分はこの場所を知っている。
「それは――キミは昔、ここで育ったからだよ。ハイラルに戻れば全部忘れちゃうから、仕方ないんだけどね」
 眩しさをこらえるように目を細める青年は、リンク以上にリンクのことを知っているようだった。なのに、警戒する気は起きない。
「ここは聖地なのか」
 あたりを見回す。ハイラル城下町と似ているようで、どこか違う。石造りの古い町並みだ。
「そう。キミがつくった世界だよ」
「それはどういう意味だ」
「聖地はキミの心を映す鏡なんだ。ほら、キミはハイラルでデクの樹様に育てられたでしょう?」
「……ああ」
 胸の奥がずきりと痛む。今はもういない、育ての親を思い出してしまった。
 青年はお構いなしに続ける。
「はじめに言っておくと、キミはコキリ族じゃない。戦いに巻き込まれて瀕死になったお母さんが、赤ん坊だったキミを連れてデクの樹を訪ねたんだ。デクの樹は、ハイリア人のキミをこっそり育てる必要があった。だから、キミはコキリ族と同じくらいに成長するまで、ずっとここにいたんだよ」
 全く覚えていなかった。気づいたら「妖精なし」としてコキリの森で暮らしていたのだ。突然処理しきれない量の情報が降ってきて、頭がくらくらした。
 ふと助けを求めて見回すが、妖精の相棒ナビィはここにはいなかった。聖地に入れなかったのだろうか。
 リンクはふう、と息を吐く。
「ところで、お前は誰なんだ」
 青年は破顔した。
「ごめんごめん、俺は鬼神だよ」
「きしん?」
「ここの守護神みたいなものかな。オレはキミを鍛えて大人にして、マスターソードを使うのにふさわしい勇者にするためにここにいるんだ。これからどうぞよろしく」
「あ……ああ」
 リンクは差し出された手を反射的に握った。鬼神はこちらの利き腕を知っているらしく、左手での握手だった。
 ハイラルと切り離された聖地。ガノンドロフに追われていたゼルダ姫はどうなったのだろう。それに、煙を上げていたハイラル城は……? いくつもの疑問が脳裏に浮かぶ。
 だが、穏やかな様子の町並みに囲まれたリンクは落ち着いていた。分からないことだらけでも、一つ一つ解消していけばいい。きっと目の前の男が答えてくれる。
 鬼神はにこにこと、本当に嬉しそうに笑っていた。



 その町は四方を壁に囲まれていて、リンクは外に出ることができなかった。鬼神には行くなと言われていたし、四方の門に近づけば門番に止められる。こっそり抜け出すことはできるかもしれないが、そうするつもりはなかった。
 町の北地区には広い草地があり、リンクはいつもそこで鬼神と剣を交えていた。
 鬼神は強かった。体格差を差し引いても、単純に腕前と経験が段違いなのだろう。おまけに体力の差も顕著だったので、いつもリンクが音を上げて先に草に寝転ぶのだった。
「くそ、ダメだったか……。今日こそゼロに勝てると思ったのに」
 ゼロ、とはリンクが鬼神につけたあだ名だ。鬼神というのはまるで役職で呼んでいるみたいで嫌だったのだ。自分がただ勇者と呼ばれるなど、考えるだけでぞっとする。幸いにも、ゼロはあっさり名前を受け入れた。
 ゼロは大して疲れていない様子で、隣に腰を下ろす。リンクは上半身だけ起き上がった。
「今日はまだ無理かなあ。明日ならどうだろうね。リンクはとても成長が早いから」
 ぽん、とゼロの手のひらが頭の上にのった。そのまま撫でられる。明らかに子どもの扱いだ。リンクは不機嫌そうに目をすがめると、ぱしっとその手首を掴んだ。
「えっと……リンク?」
「この紐はなんだ」
 袖から覗くのは装飾品だ。いくつもの細い糸が編み込まれていて、女性が身につけても違和感がないほど繊細なつくりだ。ずぼらな性格のゼロが身につけるものとはとても思えない。
「ああ、これ? 誰かにもらったものなんだけど、思い出せないんだよね」
「失礼なやつだな」
「うん……多分前の時かな。あ、ほしいならあげようか?」
「別にほしいわけでは……。それに、もらいものを無断で他人に渡すなんて、感心しないぞ」
「でもきっとキミに似合うよ。オレより有効活用できるなら、いいと思うんだけどなあ」
 そんなことを言いつつも、ゼロは大切そうに手首をさすっていた。
 リンクはぱん、と膝を叩いて立ち上がる。そこらに放られていた木剣を拾い上げながら、
「もう一度勝負だ。今度は額を割ってやる」
「言うことがなかなか物騒になってきたね……でも、負けないよ」
 ゼロは穏やかに剣を構えた。



 時はゆるやかに、だが確実に流れていった。町の中心にある時計は回り続け、リンクが聖地にやってきてから、もう七年が経過していた。
 周りの人々は、ハイラルの知り合いに似た者が多かった。ゼロは「キミがハイラルに戻ってから一気に増えたんだよ」と説明していた。そしてゼロを含めた彼らはリンクと違い、歳を取ることはなかった。
 自分だけに時が流れる不可思議な世界。それでもリンクは気に入っていた。あたたかい人々に見守られた健やかな生活のもとで、彼は見る間に成長していった。
 背丈だって、もう少しでゼロを追い越せそうだ。その暁には絶対に頭を撫でて嫌がらせをしてやるぞ、と心に決めていた。
 リンクは町唯一の宿の一室を、ほとんど自分の部屋のように使わせてもらっていた。隣の部屋にはゼロもいる。
 いつ頃からか、ゼロが夜中に部屋を抜け出すようになった。また、町を守る兵士――リンクもよく知るハイラルの兵士と同じ格好をしている――が、事あるごとにゼロに話しかけてくるようになった。何か大事な用があるらしく、その度にリンクはのけものにされる。
 はっきり言って面白くなかった。しかも、夜中に起き出すせいでゼロがよく寝坊するようになった。リンクはコキリの森で寝坊助と呼ばれていたことを根に持っていたので、ゼロにも積極的にそう言ってやった。彼は苦笑を返すだけだったが。
 ある日の夜のこと。部屋のベッドで寝ていたリンクは、誰かに体を揺さぶられた。
「リンク。起きてくれる?」
 緊張の色を浮かべたゼロだった。ただごとではないと察し、リンクは飛び起きる。時計は夜中を示しているのに、窓の外が妙に明るかった。
「……何かあったのか」
「うん、ちょっとね。姿勢を低くして、口にこれをあててオレについてきて」
 渡されたのは布だった。窓の外の光源といい、空気のじんわりした熱さといい――まさか、火事でもあったのだろうか? 
 宿の外に出ると、町の人々が焦った様子で右往左往していた。避難するというより、どうも町の外に向かっているようだ。釣られてそちらを見れば、壁の外に火が上がっている。
「早く消さないと!」
「いや、リンクはこっちに来て」
 浮き足立つリンクに、有無を言わせぬ口調でゼロが言った。後ろ髪を引かれる思いで連れてこられたのは、町の中心にある時計塔だった。
 あたりは周辺の騒ぎが嘘のようにしんと静まりかえっている。
 二人は、リンクが初めて聖地にやってきた時くぐり抜けた扉の前に立った。いたずらで押してみても一度も開いたことがない扉だ。
「キミがハイラルに帰る時が来たんだ」
 ゼロがそう告げた。
 退魔の剣を扱うのにふさわしい年齢まで成長すれば、リンクはここを出ていかなければならない。それははじめから言われていたことだ。折にふれて何度も言い聞かされ、覚悟もしていた。
 だが――いつか旅立つときは、皆に笑顔で見送られたかった。「いってらっしゃい」という言葉を土産に、気持ちよくハイラルに戻りたい。たとえ自分がそのことを忘れてしまっても、心のどこかに残るものがあると信じていたから。
 自分には、そんなささやかな望みすら許されないというのだろうか。
「どうして今なんだ。町の外が大変なことになっているのに」
 ゼロは難しい顔で外壁の方を見る。
「今……聖地はガノンドロフに襲撃されているんだ」
 リンクは顔色を変えた。
「ガノンドロフは七年前、キミが開いた時の扉から聖地に侵入して、三女神の残した秘宝に――トライフォースに触れてしまった。そして魔王となってハイラルを闇の世界に変えたんだ。今度はきっと聖地の番だろう」
 どうして何も教えてくれなかったんだ、とは言えなかった。リンクを気遣って黙っていたのだ。最近夜中に抜け出していたのも、防衛の最前線で魔王の軍勢に対抗していたからに違いない。
「……だから、俺にマスターソードを使って、魔王を倒す勇者になれと?」
 ゼロはうつむく。
「ごめんね、こんな面倒なことを押し付けてしまって」
 リンクは首を振る。ゼロを非難したいわけではなかった。
「それはいい」
 だが、何故俺だけが逃げなければならないんだ。いつまで経っても守られるばかりではないか。この七年で、それなりに強くなったつもりだったのに。
 ゼロはわずかに眉をひそめ、扉の向こうを透かし見るようにする。
「七年前、マスターソードを抜いて聖地に封印されたキミを、あとから来たガノンドロフが手に掛けようとした……その時、オレはトライフォースを守る使命より、キミを守ることを優先した。聖地のことは、オレにも責任がある」
 リンクは目を見開いた。人ひとりとトライフォースなど、決して釣り合うはずがない。
「どうして……!? なんで、そこまで俺のことを」
 ゼロは黙ってほほえんだ。そしてリンクの手を取り、何かを握らせる。
「この腕輪、キミにあげるよ。どうか元気で」
 手のひらにはあの紐が残っていた。もらいものだと言って、大切にしていたものだ。
 ゼロはリンクの肩を掴むと同時に、片手で時計塔の扉を押し開く。リンクはその中の暗闇に放り込まれた。
 扉は無慈悲に閉まっていく。
「ゼロっ!」
 どれだけ力を込めても扉を止められない。生まれてからほとんどの時間を過ごしてきた、リンクの故郷とも呼べる町が遠さかっていく。
「リンク。必ずハイラルを救ってね」
 ゼロは笑みを消し、背を向けた。扉は閉まり、そこにはわずかな光も残らない。
 ――ここでリンクの意識は一度切り替えられる。
『見て、リンク! 大きくなってる!? 成長してるヨ!』
 相棒ナビィの呼びかけにより、リンクは我に返った。体が突如として成長し、視界が高くなっている。おまけに彼は左手にマスターソードを握っていた。
 そこは賢者の間――鬼神がなんとしても守り抜いた聖地唯一の安息地だった。
 待っていた光の賢者に己の使命を知らされることで、リンクは時の勇者として七年後のハイラルに踏み出すことになる。

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